103

 むかしから僕の友だちには年下の男の子が多くって、それでいつも威張ってばかりだったのだけど、最近は尊敬できる先輩とのお付き合いのほうがずっと多くて、本当に楽しい毎日人生です。
 むかしなら後輩というのは、自分を脅かす存在ではまるでなく、いつも僕の言うことを聞いてくれる人だったし、だから未だに年下の友人と話す時はかつての残香が匂わないよう主観的には気を付けているのだけれど、その一方ではむかしから、年上の人というのは僕を脅かし理不尽に叱りつけるだけの人々、という印象だったので、今となって年上の方々と接するにあたり、先輩に対する尊敬の念を抱き抱え(だきかかえ)ながらも、同時に「見えないものを見えると言ったり、ぜんぜんすごいと思えないものをすごいと言ったりしない」ように気を付けていると、かつては味わえなかった天井知らずの自由を感じたりもする。本当にすごい人たちは、ぜんぜん威張らないのですごい。
 そうした中の一人である大尊敬する先輩に貸して頂いた、前にも書いたがキース・ジャレットの『サンベア・コンサート』を聴いています。今はこれ、もう6枚を何周したのだろう、何周目かの3Disk目、名古屋コンサートの模様を聴きつづけています。といっても、さすがに別に毎日聴いているわけではなくて、小島麻由美さんとか荒井由実ベストとかをふつうにあいだに挟みつつなのだけど、でもサンベア・コンサートはずっと聴く。
 以前、レンタルで『マーサの幸せレシピ』という、ドイツかどこかの(というかドイツだ)映画を見たのだけれど、それはとくにどうという筋でもなかったのだが、映画全体がひじょうに5月の屋上で体を打つ強めの風のようにすこぶる自然的さわやかさをたたえていて、なんといってもその音楽は素晴らしく、つまりその音楽が、キース・ジャレットの楽曲だったのではないか、と、このライブ盤を聴きながら思いました。