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朝起きてから暗くなってもっと暗くなるまで、ずっとPCの前でパタパタ打ち続けているのだった。これっていつかに似ているな、と思ったら、それは2005年の夏も終わりの頃だった。僕はずっと、東大講義の模様を文字に起こしてただそれだけを毎週のように、あるいはそれ以上にやっていたのだった。空気の粒がぷつッとつぶれて、そこから水みたいなものが出てくる。
外の天気が良ければ良いほど、夕方になって少しだけつめたくなった風が感じられるほど、それを全部捨ててフイにして、一本の講義録を、なんの保証も報償もないところでやっていた理由を考える理由はなく、でも似ているなと思うのだった。いま僕はこれを仕事のようにやっていて、まあすぐクビになりそうな風合いがいまだに明確にあるわけだが、でも同様に、ああ、風も光も捨ててこれを作っているなと思っている。体験というのか、未来の記憶というのか、よろこばしいはずだったそれが右目の脇を通り過ぎていく、それを知っているのが悔しいような残念なような。ここに面白味を見出すことがあるなら、いつも食べていないものを食べることによって味わえるものとしてのそれだろう。期待はしている。なにせ食べたことがないのだからな。朝起きてから暗くなってからもっと暗くなるまで、ずっとPCの前でパタパタ打ち続けている。何を捨てているのか、何を食べているのか、打ち合わせといって外で汗だくでボーッとなるまで歩き、しゃべる。明日ぜんぶが白っぽく、これまでのことがちゃらになることだってあるかもしれない。なればいいかもしれない、また最初から砂の城をつくるだけだろ。朝起きてから暗くなってから、まずいなこれ・・・ああまずいぞ。
ひざに乗ったそれを拭うとすこしヌル、としている。それを眺めている