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 拝啓 ユーイくん
 どもども。こんにちは、お元気ですか。こちらは知っての通り、つい先日急に梅雨が明けて、我々の宣言を待ってからスイッチを押したかのように本当にちゃんと夏になっちゃって、毎日めちゃめちゃ暑いダスよ。

 そしてまた君の知っての通り、一昨日はしっかり君を偲ぶイベントやったのだよ。このブログエントリーは基本的にその際僕が流したセットリストをメモるためのものなんだ。
 何時だったか、7時過ぎ?沖野さんさんだったらまだ朝ご飯を食べてる時間かな。夜7時ってそういう刻だろ。でも僕らにはそのぐらいがジャスト・イン。

 note103's play list 20060805@8bit cafe_shinjuku


01-「アイ・ソー・ザ・ライト」 トッド・ラングレン
02-「ティーン・エイジ・ライオット」 ソニック・ユース
03-「ディア・ゴッド」 XTC
04-「寝図美よこれが太平洋だ」 遠藤賢司
05-「君は僕を好きかい」 The ピーズ
06-「ウドゥント・ビー・ナイス」 ビーチ・ボーイズ
07-「ユー・ゲイヴ・ユア・ラヴ・トゥー・ミー・ソフトリィ」 ウィーザー
08-「レスペクタブル・ストリート」 XTC
09-「じゃますんなボケ(何様ランド)」 The ピーズ
10-「エアバッグ」 レディオ・ヘッド
11-「応答セヨ」 sing02
12-「否応なしに」 トーキョー・ナンバーワン・ソウル・セット
13-「The World has turned and left me here」 ウィーザー
14-「メイヤー・オブ・シンプルトン」 XTC
15-「ユー・ゲット・ワット・ユー・ギヴ」 ニュー・ラディカルズ

 アメリカの歌


何度も何度も思い誤り 何度も何度も困惑し
再三再四 もうやるまいと思うのだが
確実にへまをやらかすのだ
だが いいのさ いいんだよ
僕は骨の髄までへたっているんだ
今までみたいに 君は
明るくて美食家でありたいなんて思ってはダメだよ
こんなに家から遠く離れてしまってね


打ちのめされない人間がいるのかどうか 僕は知らない
僕に打ち解けた友達はいない
しめ出されず膝まずかせられない夢があるとは知らない
だけど いいのさ いいんだよ
僕らは随分長いあいだ 一緒にやってきた
僕らのこれから先の旅を考えると
うまくことは運ばないだろうと思う
どうにもならないね メチャメチャになるだろうよ


自分が死ぬことを想像したし
僕の魂が思いもかけず立ち上ることを想像した
僕を見下し 安心させるように微笑んで
僕は空飛ぶことを想像した
自由の女神
はっきり見える僕の目よりも高く
海の彼方へ 空飛ぶことを想像した


僕はメイフラワー号という舟に乗って
月まで行きつける舟に乗って
現代のもっとも定かならぬ時間に到着した
そしてアメリカの曲を歌っている
だけど いいのさ いいんだよ
昨日という日は無味乾燥な日に変わるだけだ
僕は安らぎを手に入れようとしている
僕が手に入れようとしているのは
安らぎ だけなんだ


僕は安らぎを手に入れようと している


(詞:ポール・サイモン 訳:三橋一夫



 君はおそらく知らないだろうが、僕の好きな先生に細馬さんという方がいて、はっきり言って何を考えていらっしゃるのか全くわからない不可思議な人ながらエネルギーがすさまじい感じだけはよくわかるのだが、その先生が書いておられる日記の20060617付エントリー、『徴候としての鳴き声』の中に、ポール・サイモンの「アメリカ」に関する記事があった。たしか、「アメリカ」か「アメリカの歌」のどちらかを話題にしていたよな・・・と、さっき少し探して見つけたんだ。
 http://www.12kai.com/200606.html
 ユーイ君は、「アメリカ」も「アメリカの歌」も好きだったね。大学一年の秋に僕に作ってくれたオリジナル・テープは全曲ポール・サイモンで、「明日に架ける橋」のデモ・トラックや、当時の批評の抜書きまで添付されていたのを憶えているし(抜書きは小さな字で、シャーペンで書かれていた)、大事にしてもいる。何と言っても同じアーティストの曲に「アメリカ」と「アメリカの歌」という別曲がある、というのは冗談なのかアホなのかわからなくって二人でウケたものだったが、今僕が思い出すのはそれってまるでジジェク・スラヴォイさんのラカンヒッチコック本のようだな、ということで、まあそれは僕も読んだことないのでそれ以上は言わないがいずれにせよあの二曲はどちらも素晴らしくって、君のテープにはこのどちらも収録されていた。
 僕としては「アメリカの歌」の方が好みだったから、細馬さんが「アメリカ」の方を扱っていたらいいな、と思ったんだが(少しズレてるぐらいが丁度いい)、果して細馬先生は「アメリカ」の方をがっちりとり上げてらっしゃった。やったネ。しかし最後の最後の方で、「アメリカの歌」の詞が現れた。

ポール・サイモンの歌は一貫して、アメリカ探しの果てに「迷う」。それはメイフラワー号に乗ってきたときから("We came on the ship they called Mayflower")さだめられてきたことだった。



 僕はさっき、「アメリカの歌」の詞を初めてじっくり読んで驚いたんだ。というのも実はこの話を書く少し前まで、僕は「死の大海にプカプカ浮かぶ、生という名の小舟に乗っている、おそろしく楽観的な僕とユーイ君」の映像を頭に描いていたからだ。
 メイフラワー号と転覆寸前の小舟とではスケールに壮大な違いがありそうだがそれはヨシとしよう。ヨシとしてくれ。つまり僕はこの詞を読みながら、まるで自分が書いたのではないか、と思ったのだ。僕がここにもいる。ってね。それは何かしらの作品や作家を大好きになる時に不可避的に生じる感情だが、まあそんなことは今さら君に説明するまでもないのかもしれない。君にとっては太宰やどんとがそうだったのだろうから(君はどんとを「どんとさん」と呼んだ)。
 ポールさんの詞を読んで、俺はここにもいたか、と僕は思ったよ。「アメリカの歌」を僕はイベントでかけなかった。だから今ここに書いている。
 僕が手に入れようとしているのは、安らぎだけだ。僕は、安らぎを、手に入れようとしている。ではでは、また来年。