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3 頼み方の問題

代表のひと個人について、あるいは団体の方法論についてさまざまな言われ方をするが、あまり言われていないこととして、代表からメンバー(作業者)への頼み方の特異性があると思う。

彼はこの活動をするなかで本を出版し、それはなかなか売れているようだが(印税は全額支援金にあてられるらしい)、これはいわゆるハウツー本の要素をもっており、方法論(仕組みの作り方)を提示する内容になっている(部分がある)。
だから、読者からの感想のなかには「企業運営にも生かせる」という類の話もよく聞かれるが、おそらくあの本に明示的には書かれていない、そしてこの団体がある程度の実績を上げるにあたって重要だったことが二つあって、そのひとつが彼特有の「頼み方」だ。
団体のなかでは「無茶ぶり」という形容でつねにバズっているその依頼のあり方は、呼ばれ方の通りある種の無理を強制するもので、しかし不思議とクリア(達成)されてしまうケースが多く、それによって結果が出たという面が否定できない。
クリアされてしまう理由は上記の「本に明示されていない重要だった二つのこと」のもう一つでもあって、それは参加者の「意外なほどに引き出される力」であり、世間一般ではこれをマンパワーなどと言うのかもしれない。
しかしいずれにせよ、そうした参加者を集めるのも、彼らの力を引き出すのも、代表のひとの存在に多くを拠っているという意味では頼み方の問題ということに一元化することもできるかもしれないが。

Twitterなどを見ていると、人間には頼まれもしないのに自らをアウトプットしたくなる欲求があるように思われ、適切な課題(Twitterなら140字以内とか)や柔軟な環境(TwitterならPCでもモバイルでも投稿が可能とか)が与えられることによりその機能が発動・増幅するところがあるようにも思われる。
それと同様なのかどうか、代表のひとがメンバーに何かを依頼するときにはその課題設定が絶妙だと感じられることが多い。と同時に、「もしそれが実現されたならどうなるか」という想像をさせることが巧みだとも感じられる。さらには、そうした依頼を機能させる前提として、メンバーの多くには自分の能力を存分に活用できることを楽しく感じている部分もあるように思われる。
これらの要素が揃うと、端から見て「それはちょっと無理があるんじゃないの」というようなことでも地道かつ急進的に果たされたりして、それがちょっと稀なぐらいの結果に結びついているようにも思われる。

この際、それら参加者としても、自分の能力を生かせるということの他に、成果が分かりやすい、という点によって行為が促進される面があるように思われる。というのも、どうも印象として、被災地支援の際にはアクションをした場合としなかった場合との違いが行為者に対してけっこう分かりやすい気がする。
たとえば、この活動がはじまった頃によく言われたこととして「いつまでやるのか、早めに明確にした方がいい」というアドヴァイスがあった。何人ものひとに言われたこれはおそらく、終わる時期がはっきりしないと、参加者のモチベーション(やる気)が落ちやすくなるから、という理由によるものだったと思われる。それは見方によっては確かにそのとおりでもあるが、じつは今回のようなボランティア活動においては、支援の対象となる地域や人が限定されているため、期限が限定されていなくてもモチベーションが落ちづらいのではないかと思えてきている。
逆に言えば、何のためにやっているのか、その手応えが伝わりづらい状況にある場合、継続性は落ちていくとも予測される。
さらにはこの団体では、作業を割り振る際、その責任ごと任せていくケースが多いので、そうした手応えも小さなものではないと思われ、それが参加者の熱量にもつながっているのかもしれない。

ちなみに、この団体に対するよくある質問として、他の団体とどこが違うのか、というものがあるが、もし違いがあるなら、代表のひとがやっているそのような形での依頼をできる人が中にいるかいないかに拠るのではないかと今は思っている。