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書き手と編み手の Advent Calendar 2019 全記事レビュー(前編)

はじめに

昨年(2019年)の12/1からクリスマスにかけて開催された以下のアドベントカレンダー。

adventar.org

企画としては3年目で、ぼくは初回から参加していますが、なんと今年は3回目にして初の完走!(全日程の記事が公開された)

一昨年もあと2日・・という惜しいところまで行っていましたが、こちらは本家の?エンジニアさんによるカレンダーに比べるとゆるい雰囲気もあり、コンプリートはなかなか難しいのかな・・と思っていたので、今回の完走は嬉しかったです。

なんというか、これがコンプリートするのって、25本の記事がただ公開されたっていうだけの話じゃなくて、そこに別の意味が加わるんですよね。ボウリングで言ったら8本とストライクの違い。単に2本の違いではないわけですよ。プラスアルファの特典が生じる感じ。わかりますかね・・!

ともあれ、過去回もそうでしたが、まったく面識のない、非常にバラエティに富んだ人たちが参加していて、かつ内容がまたどれも豊穣というか、初めて知るような話もすごく多くて、とにかく面白いカレンダーが仕上がりました。

でもそれはそれとして、これがスタートした当初からずっと思っていたんですが、とりあえずぼく自身は普段からけっこう忙しいというか、気ぜわしいというか、せっかくそんなに面白い記事が並んでいるのに全然読むチャンスがないというか、気がつくと別のことをしてしまっていたりして、なんか「もったいない!」という気がすごいしたんですよね。

たとえるならば、少し離れたテーブルにおいしそうなお寿司がたくさん並んでるのに、手を付けられないまま置きっぱなしになってる・・みたいな感じ。

実際には、すでに各所ですごい話題になってるかもしれないんですが、少なくともぼくの周辺ではこのカレンダーがその価値に比してあまり話題になってないように思えたので、せめてぼくが食べられるだけは食べておきたいこのお寿司、という感じで、とりあえず全部読んでそれぞれコメントをしてみることにしました。

全25本、普通はこのすべてを一気に読み切るなんてことはないとも思うので、この記事をある種のインデックスというか、ディスクガイドというか、「へえ、そんな話なんだ、じゃあ自分の関心に近いから読んでみるかな」みたいに利用してもらってもよいかなと思います。(感想自体は偏ってると思いますが・・)

なお、何しろ大変な量の記事にそれなりの文章を費やしているので、前後編に分けることにしました。
分量的にはもっと分割した方がいいと思うんですが、あんまり分かれるとたぶんこのインデックスすら追うのが面倒になると思われるので、強引に2本だけに分けて詰め込んでいます。

どちらも冒頭に目次(見出し)を入れておきますので、そこから興味のあるところだけ読む、という風にもできるかと思います。

では、お楽しみください。

1日目: モーリさん

mohritaroh.hateblo.jp

本カレンダー主宰のモーリさんによる宣言文というか、本件のコンセプトを示したような記事ですね。

随分しっかりした背景があったんだな・・と、ぼく自身の認識というか、姿勢としては、エンジニアの人たちがやってるお祭り騒ぎの編集者版というか、文系バージョンみたいのをできたらいいのでは、ぐらいの感じだったので、モーリさんのこうやって論をきっちり立てていく感じ、ほんとすごいなと思います。というか、モーリさんはそういうカチっとした部分と、柔らかさ・勢いみたいのが両立してるのがすごいんですよね・・。ちなみに、ぼくは後者(勢い)をしつこさで補強するタイプだと自己分析してるのですが。

2日目: 門松

note103.hateblo.jp

私です。本来ならもうちょっと後の日に、皆の様子を見た上で登場したいところなんですが、今回はどうしてもカレンダーを完走させたい、過去2回とは違う地平を見たい!という気持ちがあったので、その気合を示す意味でもとりあえず「タスキをつなぐ」というコンセプトで2日目に入った感じでした。

この他に1〜2日はやることになるかな、と思っていましたが、幸いモーリさん以外は誰も重複せずに書かれていて驚きました。素晴らしい・・

内容的には、そちらにある通りだいぶなんというか、再現性が低い話な気もしますが、一部の人にはヒットしたのではないでしょうか。

ちなみに、もしあと1日書くとしたら、「カスタマーサポートと編集者の類似性」みたいなことについて書いたかなと思っています。編集者の人はけっこうカスタマーサポート、向いてると思います(笑)。

3日目: 京岡さん

note.com

Mac版Wordの校正機能の良さ・悪さについて。いや悪さというか、バグですかね。その事象はまったく知らなくて、いま手元のMac版Wordで確認してみたら、自分が使ってる最新版のだと、落ちはしないもののたしかにまったく反応しなかったです。つまり実質、ここで言われてるとおりカスタマイズ不能な状態。

ぼくはWordの校正機能ってけっこう便利だと思っていましたが、デフォルトの設定しか使ってなくて、そもそもカスタマイズして使えるってこと自体全然知らなかったので、それだけでもお得情報でした。まあ、現状のMac版だとその恩恵には与れないわけですが・・。

ちなみに、別マシンに古いバージョンのが入っていたのでそちらで設定を試してみたら、けっこう細かくカスタマイズできるんですねえ。今度これはこれで試してみようかと思います。

でもそれはそれとして、マイクロソフトさんにはぜひ修正がんばってほしいですね。

4日目: 高橋さん

emasaka.blog65.fc2.com

テック!な記事ですね〜。Rubyを使ってExcelの台割を作る、という感じでしょうか。

ぼくも以前に音楽全集を編集していたときは、毎回台割をExcel(というかGoogleスプレッドシート)で作っていたのですが、この記事で例示されているのとほとんど同じような作りだったので、ちょっと驚きでした。

ぼくのはもちろん手動で、誰に教わったわけでもなく必要に迫られるまま作っていたのですが、なんというか、行き着く先はみんなこんな感じなんですかね。たしかに機能的というか、必要な情報をわかりやすく構成したら最終的にあんな感じになるとは思うんですけど。

あとRubyでExcelファイルを生成・操作できるというのもまったく知らなかったです。Ruby以前に、プログラミングってそんなこともできるんですね・・。

ぼくは2013年に趣味でプログラミング入門して、その時はPerlから入ったんですけど、今はRubyの会社に勤めているので、その繋がりでRuby入門しているところなんですけど、ちょっとこれも手元で試してみようと思いました。

5日目: Piroさん

piro.sakura.ne.jp

なんと『シス管系女子』の結城さんですね。親しみやすい絵柄でよく存じております。あー驚いた。

もう本当にいろんな角度から楽しめるみっちりした記事でした。めちゃめちゃ面白い・・たくさんの人が何度も読んで参考にできる内容ですね。いやすごいな。

漫画を描く人、ライター、編集者、読者・・いろんな人が楽しめると思いますが、とくに書き手(描き手)と依頼者であるところの編集者には非常に参考になりそうです。

ちなみに、最初にあったDTPの件で思い出しましたが、ぼくが以前に担当していた本は長期シリーズで、最初はそれこそただWordでデザイナーさんに原稿渡せば終わりみたいな前提で話が進んでいたんですけど、内容的にものすごい複雑かつ精緻さを求められるものだったので、デザイナーさんが使ってるのと同じInDesignを自費で買って、InDesignのデータをデザイナーさんと送り合って作ったりしてましたね。

やっぱり、「そっちはそっち、こっちはこっち」みたいな感じで分離して進めるとどうしても必要な情報が不足して、結局変なものができて最後に困るのはお金出して買ってくれるお客さん。てことになってしまうので、そうならないように強引に頑張ってやってました。

だから編集部的にも、「べつにこっちがどんなソフト使ってるかとか、関係ないでしょ?」とか思ったとしても、共有できる情報はしておくに越したことないので共有しましょう、と思っています。

6日目: 川野さん

www.njpwfun.com

これもめちゃ面白かった!現在進行系でライター業をされている川野さんによる「書くのが嫌になったときにどうするか」という話ですが、ただタイトルはそうなっているものの、実際はもうちょっと大きな・深い話だなあと。

率直に言って感動しました。そのタイトルにある「どうするか」についてはぜひ記事を読んでほしいですが、単に行為としてそれをすればいいっていうよりは、それまでに経てきた道の上で結果的にそれが解消法になった、という感じかなと思いましたが。

これまでのお仕事歴もひと筋縄ではいかない多様なもので、今はプロレスの話をメインに書いているそうですが、そしてぼくは小学生の頃に長州力・天龍源一郎・木村健悟などによる試合をテレビで見ていたという以外あまりプロレスの知識はないのですが、これを機に(まずは同ブログの読者登録から)プロレス再入門してみようと思いました。

7日目: zokkonさん

zokkon.hatenablog.com

ネット上でのお付き合いはだいぶ長いと思うのですが、こんな風に記事について感想を述べるのは初めてかも?
辞書の編集をされているのは知っていましたが、あと時々辞書関連の記事をブログで読んだりもしていましたが、こちらの記事ではものすごく具体的な話が読みやすく整理されていて、面白かったです。

序盤で触れられている『舟を編む』、ぼくは映画のTV放送を2回ぐらい見ましたが、まあ、泣きましたよね。なんであんなに泣いたのか・・主人公はべつに報われない役とかでもないのに、ひたすら地味・地道な作業をしている自分とリアルに重なったのか、普通に何度も泣きました。

で、そんな映画との違いを示すようにして、よりリアルな(といっても原作が間違ってるという意味ではなく、実在する現場の別の側面を知らせるように)具体的な作業や考え方が綴られていて、とても貴重な話だと思いました。

とくには、プログラムが介在する余地がけっこうあるんだな、と。あとは最後の「悪い例」が非常に印象的でした。

8日目: ハトコさん

hatoco.hatenablog.com

未知の世界でした。iPadは一応、最初に出たやつと、miniの昔のを1台ずつ持っていますが、どちらも「んー、重い」(物理的にも動作的にも)という印象しかなく、なんというか、アーリーアダプターならではの悪いクジを引いてしまったのかな・・と記事を読みながら思っていました。

最近の、とくにペンシルやProが出て以降のiPadは全然体験が違うんですかね・・(そもそも最近じゃないですか)

ぼくの周りでもiPadを常用している人が何人かいて、便利にフイフイ画面を操作しているのを見ると「へえ〜」とは思うんですけど、どうも上記のトラウマがけっこう大きくて。
1ヶ月リースで1,980円(税込)ぐらいで体験使用させてくれるサービスとかあれば使うのに!

最後のモーリさん、笑いました。なんという名編集者ぶり!知らないところで活躍されていたんですね・・ありがとうございました。

9日目: 風穴さん

windhole.hatenablog.jp

今年のbuildersconでようやく初対面させて頂きましたが。
builderscon 2019に行ってきた(2)〜本編初日〜 - the code to rock

風穴さんは一昨年のこちらも面白かったです。
windhole.hatenablog.jp

テーマはある意味で抽象的・全般的な感じですが、話の内容はすごく具体的で、引き込まれました。

じつはというか、ぼくが風穴さんを初めて知ったのは高橋信頼さんに関する記事を読んだときで、少しそれとつながる感じもあるかなと思いました。

あと、元はフリーランスの編集者として様々なプロジェクトに参加していたという話や、以下の部分など、

特に私は、IT業界に何の繋がりもない(大学にも行かなかったので)状態で編集者になりました。何かの企画が持ち上がると、先輩編集者たちは「同期の知り合い」「恩師の伝手」などを駆使して著者を見つけ出してくるのに比べ、徒手空拳、何の繋がりも持ってなかったので大変でした。

ぼくもどこかの出版社に勤めたとか、継続的に頼れるコネみたいなものはとくにないまま、ある意味流れに任せて行き着いた先々で仕事をしていた感じだったので、ちょっと通ずるところを勝手に感じたりしました。

タイトルにも繋がる「すべてはコミュニティにある」の部分には、なかなか言葉にされにくい大事な話が詰まっていると思います。

10日目: mktredwellさん

mktredwell.hatenablog.jp

こちらも面白かった!&参考になりました。「翻訳メモリ」と「Amazon Translate」はどちらも知らなかった〜・・。

Google翻訳と合わせて仕上がりを並べてくれているのもすごくわかりやすくて、面白かったです。

また自分の話をしますが、以前にGoogleドキュメントの文字起こし機能について一生懸命まとめていたことをちょっと思い出しましたね・・とくに2つめのこれ。

21世紀の文字起こし(2) - the code to rock

この機会にAmazon Translate、チェックしてみたいと思います。

11日目: narumiさん

note.com

非常に共感するところがありました。ぼくも少し前に技術系の雑誌に寄稿したことがあって、その時はたしか書く前から(ほぼ依頼段階で)「終わったらシェアしてください!」みたいなことを言われていて、ただそれについてはとくにイヤな感じはなく、何しろTwitterの知り合いの大半は技術系の人だし、実際「見て見て!すごいでしょ!」と言いたい内容だったので、自然にシェアしたりブログで宣伝したりしたのですが。

しかしそういう状況ではなく、とくに同意もないまま執筆仕事の中に著者自らの宣伝行為も含められてしまうと、ちょっと違和感というか、どちらかというと対応したくない感じになりますね。

考えてみれば、上記の自分の記事にしても「頼まれたから」というよりは、界隈における自分の存在感を上げるためというか、自己アピールを目的にやったことであって、編集者や出版社がやるべきことを代わりにやったわけではないので、もし気が乗らなかったらやらなかったと思いますし、実際に編集さんから「シェアしてください」と言われたときも、「そうですね、自分でその気になったらやりますね」という感じだったことを今書きながら思い出しました。

記事で書かれている女性ライターさんに少し近いかなと思うのは、依頼内容にそれ(シェアすること)も含まれているなら、そのことを事前に編集部から明言してもらった上で、対応期間なども含めて報酬にその内容が反映されていることを確認・同意する必要があるだろうということですね。逆に、そういうのはナアナアで、雰囲気的・空気的についでにやってほしい、ぐらいの感じだったら、やらなくてもまったく責任を問われる筋合いはないよね、と思います。

自分の記事や本などを宣伝することがステマやPRになるとまでは思わないですが、それよりも自分の貴重な時間や労力、あるいはツイートするときにはその文章をそれなり推敲するなどして技術を注ぎ込むわけなので、やっぱりそれを非自主的に(頼まれたから、という理由で)やるんだったらそれ用の対価が必要だろう、という。

なので、もしそういう対価が生じないんであれば、編集さん的にはせいぜい「よかったらシェアしてください」ぐらいにとどめておいて、著者さんがそれに対応してくれなくてもそれ以上は踏み込めない(諦める)という前提を持つべきだろう、という意見です。

12日目: 浅野さん

www.facebook.com

ゲーム制作の現場のリアルな情景が描写されていて、面白かったです。個々の作業は断片的で、でもそれを俯瞰して全体を見ている目も必要、という感じでしょうか。

短期記憶と長期記憶の組み合わせ、という話を読みながら、以前に大谷能生さんが言っていた本の書き方に少し近いかなと思いました。具体的には、執筆中にその原稿で使えそうなネタが何か浮かんだら、それを目の前の少し先のあたりの空間にぶら下げておく感じでちょっと覚えておいて(実際に何かに書いてぶら下げるとかではなく、そういうイメージを持つという話)、その上で全体を書き進めながら、その吊り下げておいたトピックが必要になったときにサッと使う、みたいな。(わかりづらいですか)

ぼくは結構、なんでもかんでもメモするタイプで、メモすることで安心して忘れられる、みたいなスタイルを取りがちなんですが、その話を聞いて「うわーそれ、自分的にはリスキーだけど確かにそうでもしないと書き進められないレベルってあるかもなあ」と思ったことを思い出しました。

逆にというか、その短期記憶用のネタの方が膨らみすぎそうな場合はとりあえずメモしておくとか、それが「後で読んで全く意味が分からないこともある」という話の方は僕もめっちゃよくあるので共感しました。で、それをメモしておくかどうか(サブの話がメインを上回るかどうか)の見極め、という辺りの話はじつにリアルというか、本職の雰囲気を感じられてとくに面白かったですね。

13日目: 鹿野さん

note.com

オンライン取材、へえ〜!と思うことの連続でした。へえ〜〜!

とくに以下、

オンラインミーティング終了から数時間後、録画・録音されたデータのURLが登録していたメールアドレスに届きます。

えええ、自動で録音・録画できるって、マジすごいですね、確かにこれは神機能!あーびっくりした。
具体的なテスト動画もすごいわかりやすくて参考になりました。

取材していて一番怖いのが、「録音しわすれる」「録音できていない」なのですが、この心配がないというのが本当に安心ですし、文字起こしを外注するときにURLを教えるだけでよいというのも地味に便利です。

いやあ、ほんとにイイですね、それは。

あとは「参加者は全員マイク付きのヘッドフォンを使用すること」というのも同感です。やっぱり「音」がダメだとめっちゃツライ感じになりますからね。全員同じ部屋にいても、全員ヘッドセットすべき。

たしか、以前に読んだ何かの記事でもそういう事を言っていたなあ、ソニックガーデンの倉貫さんの・・と思ったら、記事で紹介されている参考記事がまさにそれでした。

テレビ会議を劇的に円滑にする簡単なノウハウ | Social Change!

その他にもTipsが満載。隣り合ってログインすると音がずれるとか(笑)確かにある!それぞれのマイクに入っちゃうんですよね。

あと、以下も完全に同意です。

そう遠からぬ未来に

オンラインで取材

同時にクラウドに記録
同時に文字起こしも完了

ライターは文字起こしデータから構成・編集をする

そんなワークフローが現実のものになるように思います。

もちろん記事の作り方としては、文字起こしを使わずにやる人もけっして少なくないわけですが、そういう場合だって音声や文字起こしがあって困るわけではないですからね。多少お金がかかっても、そういう状況を実現できるならやってしまうなあ、と思います。

前編の終わりに

以上で前編は終わりです。全25本のうち、13日目までを扱いました。

後編は以下です。ぜひどうぞ。

note103.hatenablog.com