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岸野雄一プレゼンツ毎年恒例新春オープン・プライス・コンサートに行ってきた(ワッツタワーズ/イ・ラン/VIDEOTAPEMUSIC)

すでに半月以上経ってしまいましたが、1/11金曜日、渋谷のO-WESTで行われた岸野雄一さんのライブイベント「オープン・プライス・コンサート」に行ってきました。

岸野さんによるイベント前夜のツイートはこちら。

こちらのイベント、タイトルにもありますように毎年恒例で、なぜ1月11日なのかと言ったら岸野さんの誕生日なんですね〜。岸野さん、あらためましてお誕生日おめでとうございます!

ライブの出演者&DJは以下の方々でした。

ワッツタワーズ/イ・ラン/VIDEOTAPE MUSIC
DJ:岸野雄一、パク・ダハム

以下、感想を記録します。

目次

開場

18時半の開場と同時に始まったDJはパク・ダハムさんで、韓国ではレーベル運営やイベント・オーガナイズなどもしている方だそうです。後述のイ・ランさんを発掘(?)したのもこの方。

ぼくはどのタイミングだったか、10ccの「アイム・ノット・イン・ラヴ」のカバーが流れてきたのをうっとり聴いていて、あとでご本人とちょっと喋る機会があったのでその話をしたら、どこだったか、アジアのミュージシャンによるカバーだったそうで、「アジアの音楽が好きなんですよね」と素敵な笑顔で言っていました。

話を戻すと、入場後はとりあえずドリンクを交換して、そのまま2階席に行って、初めの2組は2階で座って聴きました。

VIDEOTAPEMUSIC

最初はVIDEOTAPEMUSICで、とても良かったですね。古い映画を字幕付きで見せながら、ある種それとコラボするように音楽を展開していくという。

20代の半ばから後半ぐらい、モラトリアムな気分でじわじわ内心焦りながらも、だらしなくレンタルの映画をただ眺めていた感覚を少し思い出しました。映像も音楽も字幕もぜんぶ目に入ってるんだけど、頭の中では別のことを考えていたその感覚。

VIDEOさん(略称)の音楽はその映像や音や字幕たちがどれも不可分で、映像に導かれるように演奏が流れては演奏に従うように映像が流れて、その絡まり方が不思議でありまた魅力でした。

曲も良かったです。山田参助さんが1曲だけ登場したのも印象的でしたが、とくに最後の2曲? だったか、女子のグループが車に同乗してだらだら歌ってる(なんとかスランバーという)曲、それから最後の、タイトルはフィクション・ゴーンズと聞こえましたが、年配の人たちが楽しそうに踊っている映像のリピート、まるで天国のようですごく良かったです。

イ・ラン

2組めはイ・ランさん。チェロのイ・ヘジさんとのステージで、曲によってみんとりさんやイトケンさんや海藻姉妹の人たちが一緒に演奏していました。

1曲めがたぶん「神様ごっこ」という曲で、それで一気に「なるほどこういう感じか」と全部伝わってくる感じがありました。チェロが入っていたせいか、「誰々みたいな曲」という既存のイメージがあまり浮かばなくて、それに加えて歌詞も内容がちょっと変わっているので目が離せなかったです。

その歌詞、ずっと歌に同期する感じで日本語訳がバックのスクリーンに流れ続けていて、それが良かったですね。歌やパフォーマンスを全然邪魔しないで、でもはっきり内容は読めるという感じで。今までああいう演出のステージを見たことがないのですが、歌詞の内容がわかると受け取れる情報が格段に増えるので、コレ他でもやってほしいなあと思いました。

イ・ランさんは見た目というか佇まいがめっちゃカッコよくて、たしかMCの中で「この衣装は昨日無印で買った」と言ってましたが、「無印にそんなカッコいい服売ってるんかい!」と思うぐらいカッコよかったです。

曲としては「患難の時代」がとくに印象に残っています。最後から2番めの「イムジン河」も良かったですね。「イムジン河水清く〜」の「水」が「ミジュ」と聴こえましたが、これがとても歌の魅力を増しているように感じました。

最後の柴田聡子さんとの「ランナウェイ」という曲(だと思いますが)、マジ最高でした。なんだこれ〜と思いながら最初から最後までずっと酔っ払ったように聴きました。曲も演奏も良かった・・。これは2月に音源がリリースされるようなのでマストバイします。

ランさんと柴田さんといえば、この記事がとても良かったです。2016年の記事ですが、昨日こんな話をしていたと言われても信じるぐらい、こんな感じのステージでした。

mikiki.tokyo.jp

ワッツタワーズ

トリはもちろんのワッツタワーズです。これはスタンディングで見ないと。と思って階段を降りて、前の方に行ったらDJが岸野さんで、そのまま振り付きの歌謡曲DJを楽しみました。しかし気がつくと曲は「ボヘミアン・ラプソディ」になっていて、そのまま岸野さんはステージに移動して、バンドも入ってきて、レコードだったはずの曲がバンド演奏に変わっていて、そのようにしてワッツタワーズのステージが始まりました。

ぼくが初めてワッツタワーズのライブを見たのは2006年でした。そのときのことをブログに書いています。1月12日、ライブ翌日の日付です。

このライブを観に行ったのは、たぶん前年の7月から始まった大谷能生さんのマンスリー・イベント「大谷能生フランス革命」にぼくが半分スタッフ、半分お客さんのような感じで通っていて、その第4回(2005年11月)のゲストとして岸野さんがいらしたことがきっかけだったと思います。

(のちにそのイベントを書籍化したもの。ぼくにとって初めての共編著であり、初めて関わった商業出版物でもありました)

そのフランス革命の帰り道、会場の渋谷アップリンクから駅へ向かう間に岸野さんと少し話すことができて、ぼくはその頃、菊地成孔さんのペン大(音楽私塾)に通っていたのでその話をしたら、だったら映画美学校の菊地クラスの生徒と一緒に何かやってみたら? 場所は美学校の空いてる教室を使っていいよ、という感じのことを言ってもらって、それ以降岸野さんにはいろんな場面でいろんなかたちでずーっとお世話になっています。

2009年

次にぼくがこの新春ライブに行ったのは3年後の2009年で、このときは七尾旅人さんと相対性理論が出ていました。

■OUTONEDISC PRESENTS「FUCK AND THE TOWN」

出演
・WATTS TOWERS(岸野雄一/宮崎貴士/岡村みどり/近藤研二/栗原正己/イトケン/JON(犬)/ヘルモソ)
相対性理論
・ウリチパン郡

DJ
吉田アミ
・SINGING dj 寿子(七尾旅人
・Thomas Kyhn Rovsing (from Denmark)

この回はさっきより力のこもった感想ブログを書いています。

正直、めちゃくちゃ読みづらい上にかなり感傷的な文章なので、ここで紹介するのはウルトラ恥ずかしいですが、まあ当時をこんな風に振り返る機会は二度とない気もするので、勢いで並べておきます。

しかし今思い出しても、このときの七尾旅人さんはすごくすごーく良かったです。ぼくは2階で見ていましたが、これは1階でスタンディングで見てたほうが楽しかっただろうなあ・・と今でも少し後悔します。

とはいえ、このときって相対性理論がブレイクしたちょうどその瞬間みたいなタイミングで、とにかくお客さんがめちゃめちゃ入ってたんですよね・・たぶん岸野さんから相対性理論へのオファーはブレイク前で、それがライブ本番の直前ぐらいでブレイクしてしまって、「え、今このタイミングで相対性理論のライブが見れるの?」っていう状況でこのライブがあったものだからえらい数の人が詰めかけた・・という印象があります。

*いまWikipediaを見たらアルバム『ハイファイ新書』がこのライブのわずか4日前に出ていたようです。
*実際、この日の相対性理論のライブ評はけっこう多かった気も。

なので、その意味では1階で見るという選択肢はあまりなかったのですよね・・。

2012年

次に観に行ったのは、その3年後の2012年でした。

出演
・ワッツタワーズ
岸野雄一(Vo) / 岡村みどり(Key) / 宮崎貴士(G) / 近藤研二(G) / 栗原正己(B) / イトケン(Dr) / JON(犬)/ ヘルモソ(ウサギ))
http://youtu.be/h4udQ_THlS0

戸川純
戸川純(Vo) / 中原信雄(B) / デニス・ガン(G) / ライオン・メリィ(Key) / 矢壁アツノブ(Dr))

・Alfred Beach Sandal
http://youtu.be/lyYvWA_CrWY

・シークレットゲスト ミニライブ:R&R Brothers (ex- Halfnelson)

このときは戸川純さんが出ていましたね。シークレットゲストはスパークスのお二人でした。

Alfred Beach Sandalもすごく良くて、物販でCDを買いました。

しかしこの年はブログを書いていないようです・・なぜだろう?

2013年

翌年も行きました。

OUT ONE DISC presents 「君ともう一段階仲良くなりたいと僕は考えている」

出演
ワッツタワーズ
岸野雄一(Vo) / 岡村みどり(Key) / 宮崎貴士(G) / 近藤研二(G) / 栗原正己(B) / イトケン(Dr) / JON(犬))
http://youtu.be/h4udQ_THlS0

チャン・ギハと顔たち
http://youtu.be/uJf-1Iv16y8

スカート
http://youtu.be/62XacXQlZug

DJ
馬場正道

この年は珍しくトリがゲストのチャン・ギハと顔たちで、ワッツは2番手でした。

最初のスカートも良かったです。終演後に会場の外に出たら、澤部さんがちょうど機材を車に積んでいたので「よかったです」と声をかけた記憶があります。

物販ではチャン・ギハのCDを買いました。

さて、この年にはライブとは別に印象的なことがあって、それは打上げに参加させてもらったことでした。

そしてこの2013年1月11日は、テレビ版scholaの「映画音楽編」の第1回が放送された日でもありました。

しかもその放送がちょうどライブの終演後、出演者やスタッフが打上げ会場に集まった頃に始まるというすごいタイミングで、あれはスクリーンだったか会場の壁だったか、とにかく大きな画面にEテレが映し出されて、皆で岸野さん(のヒゲの未亡人)が坂本さんと喋りながら映画音楽の解説をしているのを見ていました。

ぼくが岸野さんにその番組の元となる企画、CDブック版のscholaに参加してくださるよう連絡をしたのは、いま手元の記録を見てみたら、2011年11月11日でした。偶然ですが、これはぼくが生きている中で一番「1」が並ぶ日です。

その制作は同年末から徐々に本格化して、CDブックは翌2012年4月に校了、5月末に発売されました。

同書には岸野さんと坂本さんを含む座談会の採録記事(テレビとは別に行ったもの)の他、岸野さんの書き下ろし原稿(収録曲に関する解説)もたくさん掲載されています。これは自慢ですが、その原稿はぼくが編集したんです。岸野さんの原稿を編集する日が来るなんて!

想像もしなかった出来事が次々と実現していました。打上げ会場で見たEテレは、その象徴のような番組でした。

2014年

次にワッツタワーズを見たのは2014年でした。

■恒例・新春オープンプライス・コンサート「エンドロールはNG集!」

出演
ワッツタワーズ (岸野雄一/宮崎貴士/岡村みどり/近藤研二/栗原正己/イトケン/JON(犬))
http://youtu.be/h4udQ_THlS0

No Lie-Sense (鈴木慶一+KERA
http://youtu.be/ZZWnNdho950

ケバブジョンソン
https://soundcloud.com/kebabjohnson/hotpark

DJ
安田謙一 / 川西卓

この年にもブログを書いています。

note103.hatenablog.com

いま読み直して思い出しましたが、この2週間前に大瀧詠一さんが亡くなりました。今だからこんな風に書けますが、本当に大きなショックを受けました。まだそこから抜けきれていない感じが行間から少し感じられます。

その中にも書いたとおり、この年のことでよく覚えているのは、最後のDJタイム安田謙一さんが歌った松崎しげるの「銀河特急」です。めちゃめちゃ良くて、そのときの情景を今でも思い出せます。安田さんはフロアで歌った後、ターンテーブルまで戻って、マイクで「岸野くん! 長生きしようね!」と言っていました。

2019年

そんな楽しさのかたまりのようなイベントでしたが、それから4回分、期間にして丸5年、ぼくはそこから遠ざかっていました。

2014年の1月、安田さんの歌を聴いたすぐ後から、ぼくはscholaの第14巻「日本の伝統音楽」の制作を本格化しましたが、それまで約4年にわたって二人三脚でscholaを作ってきたスタッフF氏が別部署へ異動してしまい、なおかつ同巻は後にも先にもこれ以上ないぐらい作業量が多い巻だったので、このときからぼくはschola以外のことは全部後回しにして、1秒でも余裕があったらとりあえずscholaを作る、という感じになっていました。

とにかく締切りに間に合わない、ということが怖くて仕方なかったんですね。

年末年始は他のスタッフや関係者が皆休んでいるので、遅れを取り戻せる貴重な期間でした。毎年1/11はその集中作業の熱が冷めておらず、そのまま作業を続ける、みたいな感じだったと思います。

でも、そんなscholaも去年の春に発売された第17巻をもって退任することになり、11月からは43歳にして初めての会社員になりました。じつのところ、この年末も普通に編集仕事をしていましたが(フリーの時代に請けていたもの)、それでもscholaの時代に比べれば作業量はずいぶん少なくて、今年はようやく行ける! と思って行ったのが今年のライブでした。

ボヘミアン・ラプソディ」が終わり、いつものオープニングの曲が始まるのと同時に気がついたのは、ギターが宮崎貴士さんではなかったことでした。前回見たとき(2014年)まではずっと宮崎さんだったので、少し意外というか、びっくりしました。でもたしか、平日はお仕事との兼ね合いがあると聞いた気もするので、もしそうなのだとしたら、来年の1/11は土曜なので参加されるでしょうか・・。いずれにしても、またの機会に宮崎さんの演奏を見られることを楽しみにしています。

今回のワッツタワーズの曲目は、すぐに浮かぶところで「歌にしてみれば」「ブリガドーン」「正しい数の数え方」「ミュージックマシーン」「友達になる?」「犬とオトナゲ」「メンバーズ」などなど、いつもの素晴らしい名曲たちでした。

それから、最後の「メンバーズ」のひとつ前の静かな曲、曲名はわかりませんでしたが、たぶん初めて聴いた気がします。これもすごく良い曲でした。

「メンバーズ」の導入部分では、イ・ランさんと岸野さんの即興的な、語りと歌が混ざりながら寄せては返す掛け合いが良かったです。ランさんは必要な音をサッと取りながらけっこうすごい声量で歌うので、まるで何かの楽器で音を出しているかのような安定感というか、安心感がありましたが、全部その場であの気の利いた言葉ごと生成して出力してるんだから驚きです(それも日本語で!)。時に岸野さんが引っ張って、時にランさんが引き戻すようなその駆け引きはとても見応えがありました。

あとは岸野さんの「みんな今日からここで一緒に暮らしましょう!」も聞けましたし(すごい好き)、最後の「君たちがワッツタワーズだ!」も聞けて最高でした。

終演後、パク・ダハムさんのDJを聴きながら物販でイ・ランさんのCDRを1枚買いました。最後に支払うライブのお代は、7,000円にしました。

scholaの編集をしていた頃、「これは何百年も残る仕事だから、自分は重い責任を背負ってるし、全力を注がなきゃいけないし、そうするだけの価値もやり甲斐もある」と思っていました。

だから1秒でも余裕があれば、その時間を原稿の読み直しや書き直しに使っていました。

でも会社員になって、そういう時間の使い方をする必要はなくなりました。会社では決められた時間に最大限のパフォーマンスを出しきることが重要で、それができなければ時間外にいくら頑張っても貢献度は低く、非効率だからです。

これからぼくは、休憩時間や休日には積極的に仕事以外のことをして、その度合いは日を追うごとに増すことになると思います。そうなれば、こうしたライブにももっと参加できるようになるでしょう。

考えてみれば、ぼくが最初にワッツタワーズを見た2006年は、まだscholaはおろか、上記の「フランス革命」すら作り始めていない、まったく何者でもない状態でした。

まあ今だって、それほどの者ではないですが、でもscholaをやる前の自分がscholaをやった後の自分になって、何というか、ちょっと1周したかなという感覚があります。

次の1周には何があるでしょうか? 何をするでしょうか? ワクワクします。そんな年の始まりを、ワッツタワーズのライブとともに迎えられたことを幸運に思います。