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失敗を恐れる

A: あなたは失敗を恐れていますね。

B: もちろんです。いつも恐れています。しかし、それは誰だってそうでしょう。

A: 人間は失敗をするものです。恐れていても仕方ないのではないですか。

B: いえ、失敗を恐れることで物事の判断に慎重になるというメリットがあります。

A: 慎重になりすぎて、やるべき時にできないというデメリットもあるでしょうね。このように考えてはどうでしょうか。人が失敗を恐れるのは、結局のところ他人からの評価が低くなることを恐れているからに過ぎないのだと。本来はそんなことを恐れる必要はなく、失敗は次の試みの確度を高めますし、いわば成功へのプロセスとも言えるのではないですか。

B: ある面においてはそうかもしれませんが、常に真とは言えません。もし二者択一の賭けがあったとして、当たれば金持ちになるが、外れれば全財産を失うという状況があったとき、私は他人の評価など関係なく失敗を恐れますよ。

A: たしかに、その場合には他人からの評価など関係なく失敗を恐れることになりますね。しかし、そもそもそんな賭けをしなければ良いだけの話ではないですか。

B: 喩え話の前提を変えてはいけません。喩え話とは、あくまでその話者が思い描いているイメージを他人にも想像しやすくするために構築する、一時的で恣意的な世界像に過ぎません。それは「話者自身のイメージを説明するための世界像」なのです。その前提を他人が変えたら、それが存在する理由はなくなります。

A: わかりました。ではあなたの言うとおり、「人が失敗を恐れるのは他人の評価を気にするからである」という私の考えがすべての事象は説明できない、ということを私は認めましょう。ところで今、私はそのようにひとつの失敗を認めました。これにより、今までになかった知見を得ることができ、その点で私はひとつの成功を収めたとも言えるでしょう。つまり、先ほど言ったもう一方の「失敗は成功へのプロセスである」という定義については証明できたように思いますが、どうでしょうか。

B: それはそのとおりかもしれません。しかし、なにか反証を考えられそうな気もします。これについては、次までに考えておきたいと思います。