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commmons: schola vol.14 日本の伝統音楽 もうすぐ出来ます

昨年春から具体的な構想がスタートし、年末から本格的な作業が始まった schola「日本の伝統音楽」 がようやく制作完了しそうである。
構想からは1年半、作業開始から数えてもほとんど1年かかってしまった。

ちなみにここで言う制作、とは主に選曲と許諾確定、そしてブックレット編集のことで、実際にはこの後に印刷や流通など販売までにいろいろ工程があるわけだけど、そちらはそちらの専門の方にバトンタッチ、ということになる。

上記の「選曲と許諾確定」はCDブックのCDに関わるもの。「ブックレット編集」はそのままである。

僕は肩書としては「編集」なので後者だけやっていれば良さそうなものだけど、実際には前者にも大変関わっていて、その度合いは巻を追うにつれ増している。
しかしこれは僕にとっても悪いことではなくて、むしろそっち(CD関連)の状況が見えないままブックレット編集だけやる、というのはピンが見えない位置からショットを打たなければいけないゴルフのようなつらさがあるので、適切な作業をするためには関連情報はあればあるだけいい。

ブックレット編集ではたとえば解説者に解説を執筆してもらう。必要なだけの期間を逆算し、執筆家に依頼するというのは未来を精確に予測できない人間にはなかなか大変な作業ではある。scholaの場合はシリーズものだから、過去の経験(かかった時間や生じた問題など)を活かすことができて、その点で恵まれているが、それでも簡単なことではない。

一方で、ブックレット編集では座談会も作成しなければいけない。ここで言う「座談会」とはWebでもよく見る対談記事などの構成みたいなことで、参加者の皆さんが話したことをテキストに起こして、読みやすく編集する、みたいなことだ。

その他にもscholaのブックレットにはいくつかコンテンツがあって、それも一つ一つ作っていく。許可の必要なことがあれば相手先に連絡していく。この際、会社同士のある種ルーティンな確認で進められるものについてはcommmonsのスタッフに担当してもらう。
逆に(というか)専門家に対して専門的な要件を伝える必要がある場合には僕の方で受け持つ。

こうしたブックレット編集作業を進める際、選曲やその許諾(CDに収録できるか原盤会社と交渉する作業)の詳細や進捗がわからないと、かなりつらいことになる。
収録予定だった曲について専門家が解説を書き終えてから、原盤会社さんとの交渉が上手くいかず収録不可になった、なんてことになったら大変である。
だからつねに、他の部署や担当者が何をどこまで進めているかに目を配っていなければいけない。自分であれ、他の担当者であれ、それを怠ると時間をかけた作業が全方位的に無駄になる。

この時にキーになるのが「情報共有」だ。ぼくはチーム内の情報共有を洗練するためにかなり腐心してきたし、それは実を結びつつあると思う。これについてはまた機会があれば書くかもしれない。

また、限られた時間で求めるクオリティを保ちながらプロダクトを仕上げるためには、分担作業が有効というかほとんど必須である。
ABC3つのコンテンツを作る際、一人で作るなら順番に片付けていかなければならないが、3人でかかれば1つのコンテンツを作る時間で済む。
逆に言えば、本来1つのコンテンツを作る時間で済ませられるはずのことを、分担が下手であるがゆえに(あるいはその発想じたいがないゆえに)3倍またはそれ以上の時間をかけてしまう、というのもよくある話だ。

我々で言えば、情報共有はある程度うまくいきつつあるけど、この「分担」についてはまだまだ改善の余地があると思っている。けっして簡単ではないが、問題として設定していればいずれ改善できるだろう。

理想の分担のあり方についてはこれまでラグビーに喩えられると思っていたが、最近はそうでもないと思うようになってきた。ラグビー複数の人間がパスを回し合うことでゴールへ向かうという点で編集作業に似ているけれど、ラグビーのボールが一つしかないのに対し、編集作業では数えきれないほどのボールを同時に、かつ適切なタイミングでゴールに向けて動かしていかなければいけない。 ラグビーではボールを持っていない人も持っている人に並走する必要があるけれど(じゃないとパスを受け取れない)、編集では誰かにパスすると同時に別の誰かから新たなボールを受け取ってそれに取り掛からなければいけない。
このように考えると、この作業は料理人に喩えたほうが近いのかもしれない。

作業ツールとしては後半とくに、SlackとTrelloとGoogleドライブを使用した。この3つを常時稼働している感じ。とてもいい。
ただ最後になって、カレンダーツールもあった方がいいなとは思い始めている。Googleカレンダーから試すことになると思うが、どうなるだろうか。

これまでも音源に関しては、選曲と許諾の進行まではやっていたが、今回はさらにその後の仕上げ作業(マスタリング)にも関わっている。
今まではそこはcommmonsの担当者に(それこそ)分担していたが、今回は今まで以上に各収録曲の内容にコミットしてきたので(何しろ1年半付き合ってる)、それはそれで自然な流れで、携わってみると想像していた以上にフィットするというか、それまでに積み上げてきた知見が生かされる感覚を覚えた。

この「日本の伝統音楽」の制作は率直に言って本当に大変だった。何がどう大変だったのか、いくらでも言えそうだ。しかしその前に、まだやらなければならないことがこれまたいくらでもある。
販売、宣伝に向けてやるべきことをやるために、まだ気を緩めることができない。のちの振り返り(レトロスペクティブ)作業のために残すべき記録を数多く残してきたから、その整理も並行して(鉄が熱いうちに)行わなければいけない。

もう一息、もう一息、と言いながら半年ぐらい経った気がする。今年の春頃には「6月が一番キツそう」と言っていた。それが11月に入って、「あと2週間もすれば」とかまだ言っている。
でもそれは見込みをそのつど誤ってきた、というよりも予定されていたことはちゃんと完了していて、ただ予定に入っていなかった新規案件が次々出てくる、その連続だった、ということだと思う。

これだけ大変な巻はもうないだろう。いや、それもまた見込み違いで、これを上回るものが出てくる可能性もあるか。
実際、11巻の「アフリカの伝統音楽」が終わったとき、これ以上大変なものは今後はないだろうと思ったものだった。

正直、途中で何度も「これ、終わるのかな?」と思った。発売へこぎつけるためには越えなければならない巨大な山が無数にあって、それを越えた後の自分の姿をまったく想像できなかったのだ。これまでの経験からして、今後行わなければいけないことの数々が、自分に乗り越えられるものだとはとても思えなかった。むしろそれらを前に、「すみません、僕これできません」と言って(もっともらしい理屈を口走りながら)、スタコラ逃げてしまう像しか思い浮かべることしかできなくて、それが怖かった。でもふと後ろを向くと、それらは全部終わっている。
だからもし今後「これ、終わるのかな?」と思う事態に遭遇しても、それほど不安に思う必要はないかもしれない。少なくとも今回においては、それらは終わったのだから。

今回の巻に関する詳しい内容については、またあらためて書きたい。その機会がいつあるかはわからないけれど、今はまだ制作の渦中から抜け出しきれていないから、いくら頑張って書いたところで不要な話が多く混じりすぎるだろう。

commmonsの専用ページは発売前には出来るようにしたい。今まではこの仕上がりも遅かったから、少しでも早めに仕上がるよう改善したい。
ページが出来たらこのURLの一番上に入るはずだ。
http://commmons.com/schola/index.html

それまではCDジャーナルさんやロッキング・オンさん他でご紹介くださった記事をぜひどうぞ。
http://www.cdjournal.com/main/news/sakamoto-ryuichi/62436
http://ro69.jp/news/detail/112325