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今日の抜書き

ダニエル・カーネマン著、村井章子訳『ファスト&スロー(上)』p170より

限られた手元情報に基づいて結論に飛びつく傾向は、直感思考を理解するうえで非常に重要であり、これから本書にも何度も登場する。この傾向は、自分の見たものがすべてだと決めてかかり、見えないものは存在しないとばかり、探そうともしないことに由来する。先ほども述べたように、システム1は、印象や直感のもとになっている情報の質にも量にもひどく無頓着なのである。この「自分の見たものがすべて(what you see is all there is)」は、英語の頭文字をとって、WYSIATIという長たらしい略語が作られている。
エイモスはスタンフォード大学の学生二人を助手にして、この「見たものがすべて」傾向を調査した。一方的な証拠だけを与えられ、かつそのことを知っている人がどのような反応を示すか、観察したのである。
(略)
参加者は全員、状況を完全に理解しており、原告か被告どちらか一方の弁護士からのみ説明を聞いたグループも、相手側の主張をたやすく推測することができた。にもかかわらず、一方的な説明は彼らの判断に顕著な影響を与えた。しかも一方の側からだけ説明を受けたグループは、両方から説明を聞いたグループより、自分の判断に自信を持っていた。そう、まさに読者もお気づきのとおり、手持ちの情報だけでこしらえ上げたストーリーのつじつまが合っているものだから、この人たちは自信を持ったのである。ストーリーの出来で重要なのは情報の整合性であって、完全性ではない。むしろ手元に少ししか情報がないときのほうが、うまいことすべての情報を筋書き通りにはめ込むことができる。