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説得力の問題

その村では水が貴重だった。唯一の水源は林の奥にある小さな湧き水で、しかし湧き出る量はとても少なかったから、村人が一度に飲める水はわずかだった。
村には水を分配する役目の男がいて、男の家は代々それを業としていた。男やその祖先には特別な感覚があって、一日にどれだけの水をすくい、一人ひとりにどれぐらいずつ分け与えれば最大限の量がみなに行き届くかを心得ていた。
あるとき、村人のひとりが「あいつは俺たちに分ける水を少なくして、そのぶん自分だけが沢山飲んでいる!」と男を非難した。そして普段から分配される水の量に不満をもっていた村人たちはその言葉を信じ、男を水の分配係から外すことにした。
男のような能力をもたない人間が分配を行ったことで、水はすぐに枯渇した。村人たちは数日分の水を一度に飲みきり、みな命を落とした。

このところは自分の発言がやけに信憑性を帯びて、簡単に信じられてしまう可能性があることに不安を感じつつある。「水分け男」を非難した人のように自分がいつなってしまうか知れないと思っている。
何を言っても「そんなことないよ」と否定されるのもつらいが、何を言っても「そーだそーだ」と言われるのもあぶない。ある面から見て正しいとしか思えないことであっても別の面から見れば自分の首を絞めることにしかならない提案を行なっていることもある。説得力があればいいというものではない。
ゴルフでオーバーしたりショートしたりしながら徐々にカップへ近づいていくように、トライとエラーとやり直しをひたすら続けていくしかないような気がしている。