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私の素敵じゃない人

ずっと好きだったとかでもないのにこのように何がしかの影響というか、わかりやすく言えば落ちこんでいるというのはなぜなのか。その個人に思い入れがあるわけでもないのにどっしりと重い喪失感がある、というか当たり前にあった大きめの物がまるごと失われた感じ。
おかしい。別に好きとかではなかった。といってもツンデレ的な意味でもなく、たんに外人のこれといって繋がりがあるわけでもないおじさんに興味がないのは自然だ。

ロックスターという形容がある。たしかにそうだと思った。しかし見栄えがいいわけではない。わかいときの顔は悪くはないが、カッコイイ人と比べたらそうでもない。プレゼンが奇跡的だというが、早口だし声もちょっと高いしさして素敵というわけでもない。ではなにがロックスターだと思わせるのか、どこがそうなのか。
ようは詐欺師のようなもので、ぼくらの頭の中にある妄想をひき出し、その中にぼくらをひたらせてしまう、そういう力があった。詐術に使う小道具として、ほらこんなのもあるんだぜ、と銀色のプロダクツを見せてくる。最終的には嘘なのだが、その小道具がけっこう良くできた電話だったりして、だからべつに騙されてもいいしそもそも何も失っていないばかりか愉しさだけが残ったみたいになってる。

その人がぼくの使っているMacを丁寧に手で磨いて作ったわけでもまるでないのだからその意味では彼の恩恵をまったく受けていないというか、彼に向ける感謝があるなら先に社員たちに向けるべきだとも思うが、にもかかわらずやはりどこかで、もうこのような銀色のワクワクに出会えることはしばらくないのでは、という不安を感じている。あのような嘘をつぎにどこで聞けるのか、いつもの場所で待っていれば驚かせてくれる、元気にしてくれる、夢のような体験をくれるのだと、そんなあわく曖昧な期待が消えた。これからはかつて見たそのさして素敵じゃない先輩を自らの中に住まわせ育てていかなければならないのだろうか。