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言葉のことを考えているとき、このところ思い浮かぶのはアイスホッケーのドリブルである。パックをスティックで、右へ左へと何度もくり返し打って前へ進んでいく。これは非常に言葉に似ている。言葉はつねに右ななめ前か左ななめ前か、いずれにせよ一方向へしか示せない。パックはひとつで、そのうち触れてよいのは一ヵ所だけで、つまり箸のように「はさんで」持ち運ぶ、ということができない。
「AであるがBでもある」と言うとき、それは「Aである」+「そしてBでもある」と、やはり順番にひとつずつしか言えない。このときの初めの「Aである」が、たとえばホッケーのパックを右前方へ打った状況であり、「そしてBでもある」が、反対側からスティックを振り左前方へ打った状況であり、この2つの動作を通してようやく、ある程度思い描いた通りの、「AでもありBでもある」ということを示すことができる(と思い込める)。
これはあるいは、空港の入国ゲートをひとりずつ通過することにもたとえられる。ゲートを通過できるのは、つねにひとりずつである。同時に2人以上、ましてやグループで通ることなどできない。順番にひとりずつ、が原則であり現実である。