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 大学1年の夏、軽井沢の小さなホテルで住み込みのバイトをしたことがあり、それはまったく大変だった。僕は肥満で体を動かしづらく、しかし作業は次から次へと与えられ、周りは良い人ばかりだったが、毎日「あと〜日で終わる」と、カレンダーにバツをつけるように日々を過ごした。そんな時に数少なく心の支えになるのは、ホテルから自転車で20分ほど山を下って走りつづけた先にある街道沿いの本屋で購入した本や雑誌で、当時買った山本直樹の『ありがとう』や坂本龍一村上龍+ゲスト陣(浅田彰河合雅雄)の『Ev.Cafe』や、井上睦都実の『Green Fingers』だった。ミニアルバムというのか、決して多くの曲が入っているわけではないのだが、僕は夏中ずっとそれを聴いて、今でもそれの一音目が鳴った瞬間に20歳の夏に一気に引き戻される。僕はいま肥満ではないので、すこしノスタルジックで気持の良さだけが甦る。
 そんな(というか)井上睦都実さんのブログ『mutsumi.blog』を読んでいたら、詩人の茨木のり子の訃報が載っていた。
http://blog.inouemutsumi.net/?eid=425335
 僕は『自分の感受性くらい』しか知らないけれど、本当に多くの人がこの詩を採り上げているので、その凄さを実際にはよくわからないのだけど、たぶんその内わかるのだろうと思っていた。