103

 『失踪』読み終わりました。桐野夏生さんの直木賞受賞作『柔らかな頬』に印象が似てるなーと、途中から思ってたけど読み終わってからも思いました。発表は少し桐野さんの方が後なので(1,2年かな)、この作品にインスパイアされてた可能性もあるかな、とか思いましたが、それは別に『柔らかな頬』を貶める言説には成り得ないでしょう。
 さて直木賞といえば、本日直木賞芥川賞の候補が発表されましたね。内容は以下のとおり。

芥川賞・・・伊藤たかみ「無花果カレーライス」(文芸夏号)・楠見朋彦「小鳥の母」(文学界6月号)・栗田有起「マルコの夢」(すばる5月号)・中島たい子「この人と結婚するかも」(すばる6月号)・中村文則「土の中の子供」(新潮4月号)・樋口直哉「さよなら アメリカ」(群像6月号)・松井雪子「恋蜘蛛」(文学界6月号)
直木賞・・・絲山秋子「逃亡くそたわけ」(中央公論新社)・恩田陸「ユージニア」(角川書店)・朱川湊人「花まんま」(文芸春秋)・古川日出男「ベルカ、吠えないのか?」(文芸春秋)▽三浦しをん「むかしのはなし」(幻冬舎)・三崎亜記「となり町戦争」(集英社)・森絵都「いつかパラソルの下で」(角川書店

ベルカ、吠えないのか?
 候補作の選ばれ方に関しては相変わらずの謎かげんですが、でもそれあってのこの賞ですからね。というか、賞モノってそういうところがないと面白くないですしね。って、勿論面白いかどうかだけのためではない、結果が切実に響く方々もいらっしゃるかもしれないけれど、でも源泉にはエンタ部分あってしかりなので結論としては良い候補者さんだなーと思いました。
 まずは何より伊藤たかみさんがようやく(今頃)アクタ候補というのが嬉しくも謎ですが、そして個人的にはこの方の作品に漂う”『文藝』臭”というか、ようするに”甘ったるい風合い”には若干辟易する面がなくもないのですが、それでも実力・作品的にも順当に行けばこの方と僕は思いますだ。中島さんは、作品の質的にはすでに(というか)直木賞向きと思うのですが、新人だからという理由でアクタなんでしょうね。逆に、中村さんは質実ともにアクタの権化のように思えて久しいのですが、この作品には様々なアラがあるようなのでちょっと弱いのかな・・・と思ったり思わなかったり。いや、思う。樋口さんのはちゃんと読んでないですが、カッコよさげだったので月並みですが勢い的には十分ありえますよね。これって所謂ダークホース。さらにさらに言えば楠見さんのもチラッと読んだだけですが、僕には全然わからにゃい。で、「まあ『文學界』からも一作ぐらい出しとかないと」くらいの理由なんじゃないかと邪推してます。
 ナオキの方にはようやく(ようやく)絲山さんが移植されてよかった。古井由吉さんが、”賞候補になるのは4回ぐらいが限度、というかそれで十分で、そこで獲れなければもう卒業ということでいいんじゃないか”と言っていた(大意)ことに照らせば、今回を含めてチャンスはあと2回。じゃなくて、ラストか。心情としては是非とも獲って欲しいけど、卒業間近ってことならそれはそれ、獲れなくたっていいんじゃないかとか思ってます。「できちゃった婚」風のネーミング・センスで「今さら受賞系」という系譜を作れば(江國さんや京極さんの系譜です勿論)恩田さんもそこへ入るわけですが、グググーッと候補者を見渡せば、それも必ずしも容易な帰結とはいかなさそうで、というか、ベルカの古川さん、なんでこんなとこにいるの?とまたひと謎。『となり町』は三島賞を逃しながらもかなり売れてるようですし、それこそ質的には『オール読物』の権化・朱川さん(良い意味で。職人であり才人ですから)と並んで有力なナオキ派候補でしょう。
 ということで、選考会は”14日夕、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれる”そうです。楽しみ。