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Five books  I read a lot, or that mean a lot to me (よく読む、または特別な思い入れのある5冊の本)

□ ダンス・ダンス・ダンス(下) / 村上春樹 ・・・ハルキ先生の著作は雑誌掲載のみのエッセイなどを除けばほとんど全て読んでいると思われますが、そして氏の作品は文字通り「最新作が最高作」であり続けているとも思うのですが、僕にとってこの『ダンス・ダンス・ダンス』というのは余りにも巨大な魅力を放ってしまっているので、それで常にハルキ作品のフェイヴァリットと言っては挙げてしまいます。
 初めて読んだのはおそらくすでに大学期で、何が”すでに”なのかと言うと、その頃まで僕は上欄に挙げたいとうせいこう氏や下に出てくる永倉氏を例外的に除いて他、ほとんど活字を読んでおらず、というかそういうのが苦痛だったので少なくとも自分から本を読むなどということはなるべく避けていたのでしたが、国分寺の本屋でまさに”ひやかし”程度の気持でたまたま手に取ったこの本の余りと言えば余りにも読みやすい文章を眺めて以来、後の越し方がどうやら一気に変わってしまったのでした。ちなみにここで下巻を挙げているのは、いつも文庫で件本を持ち歩いていたある日、駅で駆け込み乗車をした際にホームに上巻を落としてしまったからで、以後は下巻だけを延々読み返しています。ガラテイア2.2
□ ガラテイア2.2 / リチャード・パワーズ ・・・このたび唯一の海外小説。リチャード・パワーズと言えば、村上春樹の盟友・柴田元幸さんや高橋源一郎氏などにおけるオーサーズ・オーサー、作家のファンが多い作家として、またアウグスト・ザンダーによる一枚の写真から長大な小説世界を構築してしまった不朽の名作にして代表作『舞踏会へ向かう三人の農夫』で有名なアメリカの作家さんですが、この作品『ガラテイア』に関してはその程度の前文・PRではまったく事足りません。でも僕がいくら言葉を継いだところで足りない分を補うことは出来ないと思われるので、ただ「読んでみて下さい。長いけど」と言って済ませてしまうのが一番良いのかもしれない。とも思うのですが、でももう少しだけ書くと、メタ・フィクションで愛の可能と不可能と、J.G.バラードよろしく冷ややかな舞台の醸し出す最先端感と誰にもわからないだろこれ、と言いたくなるほど緻密にして複雑な哲学的知識、そして音楽とコンピューターと小説の朗読と映画『アバウト・ア・ボーイ』や『そして僕は恋をする(アルノー・デプレシャン監督)』のようなちょっと情けないでも魅力的な主人公の青年が登場する、つまりは”面白そうな要素という要素がぜんぶ入った夢のような作品”です。長いけど。でもジャケがカッコいいので、飾るだけでもいいかもしれない。ゴーストバスターズ―冒険小説 (講談社文庫)
□ ゴーストバスターズ -冒険小説- / 高橋源一郎 ・・・福田和也著『作家の値うち』では”「恥知らず」の一言。”と謳われた本作ですが、それが主に高橋氏のデビュー作にして時代を震撼させた傑作『さようなら、ギャングたち』の自己模倣であるという観点に基づいての評であったのだとしたらそれはあまりにも偏狭な見方というもので、これは文体云々では計りきれない感動を秘めた大作であると僕、思います。でも、誰も(保坂和志を除いて誰も)そんなことは言わない。言ってくれない(泣)。で、それはおそらく「ちゃんと読まれてないから」なんじゃないかなーとか僕、思うのですがどうでしょう。個人的にはこの作品に対しても『ガラテイア』同様の”魅力的な要素という要素がすべて詰め込まれた・・・”といった形容を用いたいマジ超名作。明日がいい日でありますように。 サギサワ@オフィスめめ
□ 愛してる / 鷺沢萠 ・・・ハルキ先生の欄でも書いたように、僕は小説を読む集中力がぜんぜんなかった人なので、大学期でさえ読んでいた本はいずれも”読みやすい”ということがその購入基準というか条件でした。しかしながらそれは今にして思えば、「行間が広い」とか「字が大きい」といった点よりも「話を聞くように読んでいける」といった類の読みやすさを指すもので、その点において彼女・鷺沢さんの作品は僕のニーズにベスト・フィットだったのでした。
 とはいえ、僕にとっての彼女・鷺沢さんの魅力がその「スイスイ頭に流れ込んでくる天才的なまでの文体の極み」にのみあるのかと言えばまったくそんなことはなくて、むしろ初期作品『ハング・ルース』や『スタイリッシュ・キッズ』等、夜遊びに耽りながらもいつも何かしら満たされない欲求や実体のない不安に苛まれ、時には憤怒を抱え持余している、でも結局イケてる若者たちの群像劇、そのトーン・世界像に強く惹かれていたのだと思います。
 この『愛してる』は、そんな若モノ群像モノとして僕が初めて読んだ連作短篇で、どういうわけだかいつ読んでも新鮮、いつ考えても傑作にしか思えない、そして実に読みやすい小説です。(画像は別本)
□ 星座はめぐる / 永倉万治 ・・・故・永倉万治さんを知ったのは、いとうせいこう著『全文掲載』でその名そのエピソードを聞いたときで、僕にとっては数少ない高校期から読んでいた作家さんの一人です。この本は短い話がパパパパッと入ったエッセイ集とも短編集ともいえるつくりで、・・・というか永倉さんの当時の作風はどれも「人から聞いた面白い話をその魅力を存分に引き出しつつ提供する」というものだったので、民間伝承というか口承というか民話というか、ようするにエッセイなのか創作なのかといったわかりやすいカテゴリに収まらないのです。
 でも「その本のジャンルは何か?」などといった事は読者にとっては大きな問題ではなくて、というか一度読んでみたらその”ジャンル名のつけられなさ”という事態を、そして不思議な才能に包まれたその語り口を、きっと味わわざるを得ないだろうなとも思います。たとえば短篇というジャンルの中で僕は北村薫の『水に眠る』に収録されている「植物採集」という話がとても好きなのですが、この『星座はめぐる』に入っている「悪いヤツ」は、4ページにも満たない超短い話であるにも拘わらず、「植物採集」と双璧を成すほどの短篇マイ・フェイヴァリットなのです。