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WELQとキュレーションメディアと私

最大の謎

  • 数日前のことだけど、DeNAの医療系キュレーションサイト「WELQ」が全記事非公開となり、それにあわせて同系メディアのサイト群が立て続けに非公開になった。
  • この件を通じてぼくが一番疑問に思っているのは、不確かな医療情報が量産され、しかもそれらが検索結果の上位に出てくるという状況は、正確な医療情報を切実に求める人々にとっては害悪でしかないのに、なぜそれをよくわかっているはずの南場さんが組織の中枢にいるDeNAで、そんなことが起きたのか? ということだった。今この時点においても、ぼくにとってはこれが最も大きな謎になっている。*1

否定的な共感

  • 一方で、BuzzFeedの告発記事に載っていた、「1本2000文字で1000円」という条件でそれらの記事を書いていたライターの人たちと、それらを統括する編集部とのやり取りを見て思ったのは、「自分がその場に居てもおかしくなかった」という、ゾッとするほどの身近さだった。
  • ぼくは出版社や編集プロダクションに所属した経験はないけれど、現在は雇われ編集長のような立場で、複数の書き手にテーマや諸条件(締め切り・ギャラ・留意事項)を伝えながら紙面を作っていく、ということをしているから、あのチャットワーク上に示された説明書き、あるいはライターに対する各種の具体的なノウハウ(コツ)などを見て、「うわ〜リアルだなあ……」とひしひし感じた。
  • 幸い(というか)、ぼく自身はそのような業務に携わったことはないけれど、一方で、そもそも「オリジナルな文章を書く」というのは、じつは多かれ少なかれ「かつて他人が書いた文章を土台にして、そこに自分の考えを足したり、自分と異なる考えを削除したりすること」でしかない面もあると思っている。
  • もし、「何も調べずに書けること」なんてものがあるとすれば、それは「自分のこと」ぐらいで、昨日何を食べたとか、どんなことを考えたか、ということならば、ただ思いつくままに書けばそれで正解になるけれど(読みたい人がいるかどうかは別として)、「執筆を仕事にする」とか、「依頼されて文章を書く」ということをするならば、それはすなわち「自分以外のことについて書く」ということなのであって、となれば、いかにそれが得意な分野であったとしても、つねに「自分が知らなかった情報」を調べたり、「たしかこんな話があったはずだけど詳細は覚えていない」ことなどについて確認しながら書いていく必要がある。
  • これは司馬遼太郎が書くような歴史上の人物を扱う小説とか、今放送されている「真田丸」のようなものでも同様で、彼ら執筆者は、他人が調べて書き残したことをいくつも読みながら、その中の使える情報を拾ったり、使えない情報を捨てたりしながら書いているはずだ。
  • その意味で、あのBuzzFeedの記事にあったライティングの「コツ」というのは、どんな書き手にも多かれ少なかれ関わる作業なのであって、たしかにそこには「不正か、そうでないか」という観点から見れば明らかな違いがあるかもしれないが、同時にその違いは非常にわかりづらいものでもあると思う。

擬似ライター養成講座

  • たとえば、その指南書では繰り返し「コピペは禁止」と言っていて、それ自体は誰もが賛同する方針だろう。また、「語尾や言い回しを変えるだけでもダメ」だと言っていて、これについても反対する人はいないだろう。
    • 「そういう問題でもないんだけどな」と思う人も少なくないだろうが。
  • 個人的に極めつけだと思ったのは、「事実は参考にしても良いが、表現を参考にしてはいけない」というアドバイスで、掛け軸にして飾っておきたいぐらいまっとうな指導だと思う。
    • 実際のニュアンスとしては、「事実ならパクってもバレづらいからよいが、後者はバレるからやめとけ」と読み替えるべきなのだろうが、いずれにせよこれ自体は不正の指示とは言えないということ。
    • ただし、一緒に紹介されている「書き換え例」などを見ると、元の文章にある筆者の「視点」や「発想」もそのまま使ってしまっているので、実際に行われていたのは「事実の参考」にはまったくとどまっていないとも思うが。
  • その他の告発資料を見ても、同様の編集部からライターへの事細かな指示が満ちていて、このような指示やチェックを行う編集部も、それに応じるライターも、どちらも大変な労力だなこりゃ……というのが素朴な感想だった。
  • もはや、そこで行われているのは「ライター養成講座」のようなもので、とくにライターのほうにあまり経験がない場合には、「報酬をもらいながらライティングのコツを伝授され、かつ各記事の校正までやってもらえる」という状況なわけで、これはそこそこ居心地のよいコミュニティだったのでは、という想像まで頭に浮かんでくる。

もしも自分だったら

  • それと同時に思うのは、もし自分が何かの弾みで、ライター側であれ、編集部の側であれ、その場に居たとしたら、果たしてこれらの行為の問題性に気づけただろうか? ということで、この疑問(妄想)が頭から離れない。
  • ぼく自身は職業としてのライターの経験はないけれど、それでも少ない経験上、普通ライターというのは、よほどの実績でもなければ「自分の書きたいこと」だけを書いて生計を立てるなんていうことはまず無理で、となれば、上にも書いたとおり、必ずしも詳しいとは言えないことについて、調べながら書いていかなくてはならない。
  • そして、そこでやっている行為自体を取り上げるなら、通常のライティングの依頼でも、このWELQのライティングでも、本質的なところは変わらないのではないか、という気がしている。
  • たしかに結果だけを見れば、WELQにおける書き換えは「コピペであることがバレないため」の姑息な操作だったのかもしれないが、上記のとおり、実際には通常のライティングにしても、数多の参考資料の中から一部を使い、一部を使わず、そしてそれをいくつも重ね、組み合わせていく中で文章を編み上げていく、という過程が普通にある。
  • そのような中で、もし「自分だけの(オリジナルな)意見」というものが生まれるとすれば、それはそうした地道な作業の繰り返しの末にようやくにじみ出てくるものであって、だから「どこまでが他人の文章でどこからが自分の文章か」という境界を見つけることは難しい。
  • その意味で、このWELQの一連の作業工程においても、果たしてライター自身がこの行為をどう考えていたのか、あるいは指南役のほうですら、どこまで不正性を自覚していたのか? というと、人によってはわかってやっていたかもしれないが、もしぼくだったら、とくに何も考えず粛々と作業を進めてしまっていたのではないか、と考えずにはいられない。
  • それに、仮にそうした工程や方針に違和感を覚えたとしても、その仕事の他に収入を得られるあてがなければ、簡単に断ることも難しい。上の告発記事で、そうしたあり方に疑問を感じて辞めたライターさんが出てくるけど、なかなかできることではないと感じる。

ユーザーのために

  • ではそのように、局所的には不正を自覚することが難しいかもしれない行為・作業があったのだとして、それならWELQを初めとするDeNAのキュレーションメディアに責められるべき問題はなかったのか? といえば、もちろんそんなことはなくて、結局のところ、そうやって作られた膨大な記事が、そもそも「何のために」必要だったのかという、メディアの「目的」に最大の問題があったのだと思う。
  • TechCrunch Japanによる以下の社長インタビューによれば、

まずはユーザーに喜ばれるコンテンツ作りをやっていきます。

ユーザーにとって役立つサイトになれたら再開したいと思っています。(略)ユーザーにとって役に立つ記事が出せて、ビジネスとして成り立つのであればやっていきたいと思っています。

ユーザーにとって役立つコンテンツを作り、その記事の検索順位を上げていければ、社会的にも良いことだと思っています。

  • と、今後の対応に関して、「ユーザーのために」という「目的」を何度も述べているが、少なくともこれまでの各キュレーションサイトの運営においては、そのような目的を持ってはいなかっただろう。
  • 一連の記事作成の工程を見れば、それらのプロジェクトが大切にしていたのは、「SEO上の要件を踏まえた記事を大量に作れ」という方針であり、記事の内容や質についてはどうでもいいと思っていたことがよくわかる。
  • 同時に、その事業は「記事の中身はどうでもいいが、記事がなければ成立しない」という矛盾した性質を自らに抱えたものでもあって、かつ大量の記事を作るためには一本一本に時間をかけることもできず、時間のかけられない記事の内容は薄くならざるを得ないから、必然的に「中身のない記事を量産しろ」という方針になってしまう。

食玩、あるいはそれ以上の悲しさ

  • この一連の話を通して、ぼくが思い出すのは、ロッテの「ビックリマンチョコ」である。
  • ビックリマンチョコには、ウェハースで挟まれたチョコレート菓子と、「おまけ」のビックリマンシールが入っているが、子どもたちが欲しがるのはもっぱら「おまけ」のシールの方であって、これがまた購入者の射幸心を煽ることから、一時は子どもたちが大量のそれを買い漁っては、シールだけ抜いてチョコを捨ててしまう、という行為が問題になったものだった。
  • キュレーションメディアにおける記事は、まるでこのチョコレート菓子のようだと思う。といっても、ここで購入者の「子ども」にあたるのは、記事を読むユーザーでもなければ、ライターでもなく、運営会社である。
  • 運営会社が本当に欲しいのは、記事ではなく、それを大量に公開することによって得られる「何か」である。しかし、それを得るためには記事が必要だから、望まないチョコレート菓子を一緒に購入するように、ライターに対価を支払い記事の執筆を依頼する。
  • 運営会社にとっては、その記事の中身なんてどうでもいい。それが日本語で書かれた、かつ最新のSEO対策が施された文字の集積でありさえすればいい。
  • 必然的な帰結として、書かれた記事は読まずに捨てられる。捨てると言っても、削除してしまっては検索に上がらないから、運営会社はそれをネットの海にただ流す。漂流する記事は、高い確率でユーザーに拾われるが、そのたびにナンダコレ、と捨てられる。
  • これはある意味で、食べられないまま捨てられる菓子以上に悲しい扱われ方である。

想定読者は検索エンジン

  • ぼくは上記のように、キュレーションメディアというものは、そもそもの「目的」に問題があると思っている。
  • 運営会社の目的は、「ユーザーに価値を届けること」ではない。もしユーザーに価値を届けることが目的なら、BuzzFeedの記事で元ライターが証言しているような、

「『この商品がオススメ』といった軽いテーマの記事にも、8000字を求められるようになりました。検索順位が大事なのはわかるけど、読む側の都合をまったく考えていません」

  • という事態が起きることはないだろう。
  • またもちろん、転載元の各サイトの書き手、写真家、クリエイターたちを世の中に紹介することが目的なわけでもない。本来であれば、自らソースを持たない手法の性質上、転載元の理解や協力は不可欠であるにもかかわらず、転載元への価値の還元は考慮されていない。
  • だから、このようなことも生じてくる。

www.photo-yatra.tokyo

  • 運営会社の目的は、「人間向けではない、検索エンジンに読ませるための記事を作ることによって収益を上げること」であって、それは関わる人々の人間性を軽視しても成立する。

BuzzFeedの標的は「キュレーションメディア」ではない

  • ところで、じつは一連のDeNAを告発する流れの中で大きな役割を担っているBuzzFeedはどのような運営をしているのかというと、キュレーション記事としか言いようのないものがいくつも掲載されている。
  • それぞれのライターさんに対して悪意はないし、BuzzFeedのすべての記事がこのような体裁だというわけでもないが、これらの記事を読んで思うのは、「記事の中身や読者よりも、とにかく量産することを目的に書かれたのではないか?」ということだ。
  • そのような前提をもって、あらためてBuzzFeedによる告発記事を読み直すと、BuzzFeedが問題視しているのは、どうも「キュレーションメディア」そのものではなく、「キュレーションメディアを謳っているのに実際はライターに報酬を支払って内部の方針に沿って記事を書かせていた」とか、「盗用がバレないように画策していた」といった、悪質性が明白な、具体的な論点に絞られているように見える。
  • しかし翻って、今回の問題に対する一般的な意見の多くはと言うと、これはやはり、「キュレーションメディア」全体への批判や不満であるように思う。
  • ここには、地味だけど大きな関心のズレがある。
  • 果たして、BuzzFeed自体は、「キュレーションメディア」についてどう考えているのだろう? 上のような記事を書いているライターさんは皆、転載している素材の作者の承諾を得ているのだろうか? あるいは上に紹介した写真家のように、「無断で使われた」と言われたり、感じられてしまったりしないような対策を取っているのだろうか? そうした各ライターによる転載元との連絡を、一元的に管理している機関が編集部内にあるのだろうか? 仮に転載元から苦情が寄せられた場合、BuzzFeed編集部はどのように応じるのだろうか? 「ライターがやったことだ。編集部は知らなかった」という事態にならないだろうか?
  • 個人的にはどうしても、こうしたある種の矛盾というか、ブーメラン感を感じる部分はあった。と同時に、そんなことは同編集部でも当然想定しているはずで、それでもなお、今回の一連の記事執筆、公開に踏み切ったのは評価すべきだとも思うのだけど。

キュレーションメディアの問題は、その暴力性

  • そろそろまとめに向かう。
  • 上記のように、ぼくは今あるようなキュレーションメディアのあり方はひどいものだと思う。
  • DeNAに限らず、ここ数日のうちにたまたま知ったものだけでも、サイバーエージェントのSpotlightとか、リクルートのギャザリーとか、あるいは老舗のNAVERまとめとか、ディテールはそれなりに異なるとしても、共通するのは「読みづらい」「何を言いたいのかわからない」「まともに構成されていない(まとまってない)」というようなことで、読み手によっては「そんなことないよ、読みやすいよ」という人もいるかもしれないが、ぼくとしては、「なるほど、人間が読むために作られていないから読みづらかったのか」という感想に落ち着く。
  • また、そのような記事に自分の文章や写真等を無断で転載された人がどう感じるかといえば、綺麗に言えば「リスペクトを感じられない」ということになるだろうが、もう少し直接的に言えば、いきなり暴力を振るわれたようなものだと思う。
  • それは尊厳を傷つけられるということであって、人間扱いされない、ということでもある。
  • キュレーションメディアにおいては、記事の中身は何でも構わないわけだから、無断転載をされた側としては、自分が他人の儲けのための「道具」や「モノ」として扱われたように感じるに違いないし、もしぼくがやられたら精神的な傷を被るだろう。

理想のキュレーションメディア

  • もしそれでもなお、今あるキュレーションメディアがその運営を維持したいと思うのであれば、第一に、記事の内容がまともにならなければならないと思う。
    • しかし当然のことながら、良い記事を作るには時間がかかるから、現在のような「長文」「量産」を前提とした体制では無理だろう。いろいろな前提を変える必要がある。
  • 第二に、ひき続き独自ソースではなく、様々なところから素材を転載してくる手法を用いるのであれば、それによって収益を得た運営会社から転載元に対し、収益に応じた何らかの還元を行う必要があるだろう。上に挙げた、転載元の尊厳を奪う行為を改めるには、そうした観点が欠かせない。
  • ちなみに、ぼくがキュレーションメディアと聞いて、理想的なあり方として思い浮かべるのは @yto さんによるヲハニュースである。
  • はてなブログ版もある。
  • ここでは書き手のたつをさんのアンテナに引っかかった物事を日々紹介していて、「対象」「引用」「それらに関するコメント」の区分もわかりやすい。記事の主目的は「対象の存在を紹介し、それらへの個人的見解を述べること」であり、対象サイトへのリンクも明快なので紹介先から不満を訴えられることもないだろう。
  • また、技術的な話題が主だが、@t-wadaさんによるはてなブックマークも面白い。
  • ご本人の備忘録的な側面もあるだろうけど、同時にこれを見ている読者にも、多少なり益をもたらすことを想定しながらコメントされていると感じる。
  • これらのサイト(ブックマーク)と、現在問題になっているキュレーションメディアとの違いは何か? と考えてみることは何らかのヒントに繋がるのではないだろうか。

テクニックだけでもいい

  • 途中に挙げた社長インタビューの最後で、守安社長は「今回はテクニックに頼りすぎてしまっていたのではないか」と言っていた。
  • しかしぼくの感想では、「テクニック以外に何があったのか?」と思う。
  • 独自ソースもなく、他人が公開した文章や写真を使って、誰に伝えたいわけでもない記事を量産できるだけの編集技術と、最新のSEO技術を駆使して、事業を成功させようということ以外にどんな目的があったのか? と。
  • その上で、じつはぼく自身は、「テクニックだけでいいじゃないか」とも思っている。中身のない記事と、SEO技術だけでどこまで行けるのか、見てみたい気もする。それもまた新たな人間の可能性を発見するきっかけになるかもしれない。
  • それに、極限まで突き詰めて考えれば、人間が生きる目的というのは結局、ひとまず今日・明日に食べるゴハンを確保することであって、その方法が他に何もなければ、ある程度グレーのことでもやらなければならないときもあるかもしれない、とも思う。
  • 綺麗事をいくら並べたところで、他に手段がなければどうしようもない。
  • そのゴハンを食べていくための過程において、他人の尊厳を貶めたり、キュレーションメディアだと言いながらライターに執筆依頼をしたり、検索結果の上位に質の低い記事を蔓延させたり、さらにはその中に命や健康に関わる誤った医療情報を増やしたりすることは、たしかに常識的には許されないが、他にどうしようもなかったなら仕方ないですよね、とも思うし、そんな救いのない感想とともにこの長文を終わりたい。

*1:コメント欄で参考記事を教えて頂いた。

トモフスキーとピーズにハマった

年明けのピーズのライブに行けることになったので、その予習ということでもないのだけど、ふとYouTubeでピーズの曲を見て回っていたら(Spotifyには入っていなかったので)、関連動画とかいってトモフスキーの以下のライブ映像にぶつかった。

www.youtube.com

2曲のメドレーなので、ちょうど曲が切り替わる3:19のところからスタートするように設置してみたが、その「我に返るスキマを埋めろ」という歌の弾き語りがすごすぎて、その後ずっとこれをリピートしている。

公式のビデオクリップもとてもいい。

www.youtube.com

僕はトモフスキーって「タイクツカラ」とか「うしろむきでOK!」のような、歌詞や発想で屹立する人だとこれまで思っていて、曲もいいとは思っていたけど、こんなにロックでこんなに良いメロディ(というかコードというか)を書く人だとは思っておらず、びっくりした。

このAメロ、というかサビに入るまでのコード進行はbonobosの「THANK YOU FOR THE MUSIC」でも使われていた、いわゆる「Just the two of us進行」だろうか。延々聴き続けることができてしまう。
しかしこの曲の場合、その不滅&普遍の黄金進行をサビではなくAメロに使っているのがミソだと思う。サビではないから飽きづらい、という気がする。

すっかりハマってそのまま「カンチガイの海」とか「明日、君に会うのか」というのも続けて聴いていたが、やはり良いものだった。

じつは少し前に、このトモとピーズのハルが地元にライブに来ていたのを知っていて、行くか迷ったけど別件を優先して行かなかった、ということがあり、これらを聴いてけっこう後悔した。

彼らは千葉県出身の双子のロッカーで、たしかにというかなんというか、ぼくの小中学校の友達にまじっていてもおかしくないような近い匂いというか、雰囲気を感じる。

ピーズを好きになったのは14才か15才のときにまだ開局したばかりのbayfmから「そばにいたい」が流れてきたときで*1、たまたまカセットテープにエアチェックしていたから何度もそれを聴き返した。

そのままおそらく当時まだ出たばかりだった『グレイテスト・ヒッツ Vol.2』*2を近所のCD屋で買って、これもまったく何度も聴き返したものだった。

グレイテスト・ヒッツ Vol.2

グレイテスト・ヒッツ Vol.2

その後、二度目のブームになったのが大学の頃に出た「底なし」のビデオクリップを見たときで、聴いた瞬間に「うわ、なんだこれ!」と衝撃を受けてそのままアルバム『どこへも帰らない』を買いに走った。

どこへも帰らない

どこへも帰らない

次に出たアルバム『リハビリ中断』もすごいもので、このときは国分寺の駅ビルに入っていた新星堂だったか、そのCD屋で買って、そのままアパートへ帰るバスの中でCDウォークマンに入れて、1曲めの「線香花火大会」を聴いてまた気を失うほどのショックを受けてその弾みで前の座席を両足で蹴り上げてしまった。

リハビリ中断

リハビリ中断

3回目のブームはもうそれから何年もして、何かの機会にたまたま「君は僕を好きかい」を耳にして、うわー、これすごいなあと思っていろいろ探したけど、ベスト盤にしか入ってないらしい、という感じだったのですでに知っている曲も多く入っていたがわざわざそれを買ったりした。

ブッチーメリー The ピーズ1989-1997 SELECTION SIDE B

ブッチーメリー The ピーズ1989-1997 SELECTION SIDE B

一緒に入っていた「どっかにいこー」は知らなかったけど好きになった。
「シニタイヤツハシネ」は彼らの代表曲でその存在を知ってはいたけど、通して聴いたのはたぶんこのアルバムを買ってからで、これもまた中毒したように何度も繰り返し聴いたものだった。シンプルなつくりだけど、ボレロのように構成・展開の妙で飽きずに最後まで聴かせる。

これらを聴いたのはたぶんまだインターネットに触れていない最後の頃で、しかしその後はYouTubeで知らなかった彼らの曲を聴ける機会も増えた。

YouTubeで初めて知って好きになった曲としてはこれとかだいぶハマった。

www.youtube.com

大学で一番仲の良かった友人に『どこへも帰らない』や『リハビリ中断』を聴かせたら彼もハマって、その後は僕よりもリアルタイムでピーズを追いかけるようになって、いくつかCDを逆に借りたりしたものだった。

The ピーズ

The ピーズ

とか、

アンチグライダー

アンチグライダー

とか。

彼との付き合いは1996年から2005年頃までの、10年にも満たない時間だったが、僕は彼にウィーザー中村一義やピーズを教えてやり、彼は僕にドラクエのサントラやたまやポール・サイモンを教えてくれたものだった。

カセットテープに好きな曲を詰め込んで、交換したこともあった。ああいうの、今だったらどうやればいいのだろう? やり方がわからない。

YouTubeのリンクをリストにするのか? いや、そうではないだろう。

46分や60分や90分のカセットテープのA・B面に、自分で構成した大好きな曲たちを順番に入れていく。それがそのまま友人の家でプレイされ、一緒に聴くこともあれば、後日その感想を伝え合うこともあった。

CDラジカセはなくなってしまった。カセットやMDのような共通の空メディアもなくなった。
ぼくらは今ならどうやってオリジナル・テープを作り、交換できるのだろう?
わからないな。

14才の春先にFMラジオから流れてきて好きになった彼らを、41才の真冬に初めて直接観に行ける。
楽しみだが、少し怖い気もする。

*1:たしか当時の新進バンド紹介みたいな番組だかコーナーで、16TONSの「銃殺の朝」も流れてそれもアルバムを買った。

*2:デビュー・アルバムなのに2枚同時発売でそんなタイトルだった、ということは後から知った。

iPhone6sの電話会社をauからmineo(格安SIM)にナンバーポータビリティで乗り換えた

はじめに/現状を把握する

今年の10〜11月が更新月なんだよな〜……とはずっと思っていたのだけど、なにしろ一昨年の年末からスタートした長期プロジェクトがつい先週ぐらいまで続いていて、とくに10月に入ってからはそのウルトラピーク期にハマっていたのでまったく他のことをできずにいた。

「なんとか11月の初めぐらいにコレが終わってくれれば、その後の月末までの期間で解約&乗り換えできるんだがなあ」とか思っていたけど、ほんとにギリギリ間に合うぐらいでそんな感じになったので、われながら焦ったというか、見積りどおりだったというか。

格安SIMの会社(以後「MVNO」と言う)への乗り換えについては、以前からそういう希望というか気持ちは強くあったのだけど、いざとなるとかなり未知というか無知の領域すぎて、ちょっと腰が重かった。

けど、以下の記事を読んで、

http://r7kamura.hatenablog.com/entry/2016/10/08/171606r7kamura.hatenablog.com

んーむ、いよいよやっぱり、やっといたほうがいいな、というか出来るなこれなら、という気になった。

上記のブログ記事の素晴らしいところは、変更前にどんな料金がいくらぐらいだったのか、という金額が列記されていることだった。大変参考になった。

それにならうと、ぼくの場合はこんな感じ。(直近月のau料金)

項目 金額 内訳
基本使用料 934 -
LTEプラン - 1,868
誰でも割 - -934
オプション使用料 6,500 -
LTE NET - 300
LTE フラット - 5,700
テザリングオプション - 500
請求総額割引(毎月割/税込) -2,435 -
Apple製品向けサービス(税込) 812 -
AppleCare - 648
紛失補償 - 164
購入機器代金(分割支払) 4,580 -
ユニバーサルサービス 3 -
消費税等 594 -
計(電話料金) 10,988 10,988


合計1万飛んで988円。けっこう、というかだいぶ高い。
しかも、これはとくに高い月とかではなく、普通。いや、平均よりちょっと安いぐらいかもしれない。

というのも、すでにお気づきの人もいるかもしれないけど、そう、上記には「通話料」がない。

これはべつに転記漏れとか、項目名が特殊とかいうことではなく、明細に「通話料」が記載されていないから書いていない。つまり、この月にぼくは携帯で話してない。
(参考までに、その前月を見たら通話料は60円だった)

さらに言うと、ぼくは1日の大半を自宅の仕事場で過ごしていて、ネットにしてもそのほとんどを自宅のWifiでまかなっている。

ということは、ほとんど通話もネットも使っていないのに毎月1万円以上 auに払っているということになる。

これはさすがになんというか、いかに正当な根拠があるとしても、自分の実感には反するというか、「こんなに使ってないのに、こんなに払うの?」という感じになる。

以前からMVNOへの乗り換えを強く希望していた、というのはそういう意味でもある。

端末代金の未払い額をどう考えるか

それにしても、一体どうして、「そんなにも使っていないのにそんなにも払っている」のか。
といったら、これはひとえに「購入機器代金」というのがでかい。

具体的には、ぼくが買ったiPhone6sの128GBというのはトータル11万円弱の端末で、これを24ヶ月に分割して払っているので、AppleCareなども含めると毎月5000円以上がいやおうなしに加算されている。

ぼくはこれを発売直後に購入したので、今回乗り換えるまでにすでに13回の分割代金を支払っていたけど、それでも5万円ちょっとの未払金が残っていた。

いや実際、購入時にはそこまで考えていなかったけど、考えてみればこれだけ代謝の激しいスマートフォン界隈で、ひとつの端末にこれだけ出費してしまったのはやはり使いすぎだったと感じる。

と同時に、この代金に関しては、今後ぼくがいくらauに居残っていても払う義務がなくなるわけではないから、その残額(5万ちょっと)が乗り換えの是非を左右するということはなかった。

と、なぜそんなことをわざわざ言うのかというと、じつは乗り換えを検討している最中によく耳にした説明で、「端末の未払金が多い場合は、キャリアの割引プランを考慮すればとどまった方がトク」みたいな話があったからで、最初は「へえ、そんなものか」と思っていたけど、しかし過去の明細書を何度眺めても、このままauにとどまることによって「本来払うべき端末代が減る」という現象はナイように思えた。

たしかに上の明細を見れば、「請求総額割引(-2,435)」や、「誰でも割(-934)」という、キャリアならではの感じの割引プランが適用されていることがわかるけど、それは結局のところ、たんに支払総額から引かれているだけであって、ということは、乗り換えることによって支払総額が減るならそもそも考慮する必要のない割引要素である。

もし、「キャリアに長くいるほど、支払うべき端末価格が当初の予定額から減っていく」のであれば、早く乗り換えるほど端末価格が高くなってしまい、結果的に乗り換えて損をするということもあるかもしれないが、実際には何年契約していようが支払う端末代金は一定なわけで、そうであるなら、これを乗り換え可否の検討要素にする理由はないだろう。

そういうわけで、「端末代金の未払い額が多いなら乗り換えはとどまるべき」という話の根拠はいまだに理解できていない。

乗り換えるかどうかを決めるための注目要素とその比較

となれば、残る検討要素はその端末代金を除いた額なわけだけど、上の明細で見ると、総額「10,988円」から端末代金(分割支払金「4,580円」+Apple補償関連「812円」)を引いた額は、「5,596円」。

つまり、他社に乗り換えてからのその料金(総額から端末代金を引いた金額)がそれより減ると見込めるなら、乗り換えたほうがよいということになる。

ちなみに実際には、乗り換える際の手数料として、出ていくとき&入るときにそれぞれ各社へ税抜き3千円程度の手数料が必要になるわけだけど、ぼくの最大の目的は「毎月ぜんぜん使ってないのに確実に1万円以上出ていく」というループから抜け出すことにあるので、一時的にその程度支払うぐらいならそんなに痛くも感じない。
(実際には後述のとおり、MVNOに入るときの手数料は700円程度に抑えられたのだけど)

話を戻すと、乗り換えた場合に毎月端末代を除いて「5,596円」以下になるか、というのが結局検討のしどころになるわけだけど、これは普通に下回ると思った。

すでに乗り換えた人の話を聞くと、「だいたい月に3千円ぐらい。多くても4千円いかないぐらいかなあ」と言う。

その上で、MVNO各社の料金表を見ると、多くは3GBで月1600円から。5GBにしても2200円から、とか。上の話ともそこそこ合致する。

ぼくの場合は上記のとおり、実際にはほとんど携帯の通信を使わないので、緊急時のことを考えても3GBあれば足りそうだけど、5GBで想定しても3〜4千円の料金なら、「とりあえずやってみる」には充分な状況だろう。

ということで、やると決まったら今度はMVNOの会社選び。

参考にした先人の発言や記事/IIJmioが最有力(だった)

乗り換え先については、上記のブログの他、ぼくがTwitterでフォローしている方の以下のツイートがとても参考になった。

いや、もうかなりまとまってます。ありがとうございました。

その他にチェックしたのは、ただただしさんのブログと、

深沢千尋さんのブログ。

たださんはIIJmio、深沢さんはIIJmioをしばらく使われた後にイオンモバイルへ乗り換えたという。

このあたりまでを見回った段階で、ぼくの最有力候補はIIJmioだった。

上のツイートの方はmineoだったけど、その他のエンジニアの方々は皆IIJmioを使っていて、それぞれ評判も悪くない。

というかまあ、最初の記事の方は「乗り換えたよ」という報告記事なので、まだ評判も何もないわけだが、それでも「信頼できる人が使っている」という話だし、深沢さんも結果的には別のところに移ったわけだけど、「初心者にはIIJmioをオススメできる」と言っておられるし。

また、IIJmioTwitter担当の人を少し前からフォローしていたんだけど、いつも迅速かつ真摯な姿勢で情報をアップしていて、好感をもてた。

あと、IIJmioはWebサイトもけっこう綺麗にできているし、ぼくとしてはとりあえず「今よりマシ」になればいいのだから、何も全社を比較した上でのベストを選べなくても、この限られた乗り換え期間に少しでもベターにできればよく、そのモチベーションからすると「とりあえずIIJmio」で充分かな、という印象だった。

しかし、そこまでほぼ決まっていたにもかかわらず、ぼくの決断を押しとどめていたものがあって、それはいくつかの「説明の足りなさ」だった。

説明不足の「DプランとAプランの違い」

具体的には、これってけっこう根本的な問題だと思うのだけど、IIJmioやmineoには「Dプラン」と「Aプラン」という大きく二つのプランがあって、でもその違いに関する記述がやけに薄い。

いろんな情報をかき集めてみれば、「どうもDプランというのはdocomoの回線を使っているらしい」「Aプランというのはauの回線を使っているらしい」ということまではわかるのだけど、「じゃあ、今の自分はどっちを使えばいいのか?」ということ、つまり「どんな背景・条件の人がどっちを使うべきか」という情報がものすごく少ない。

各社のサイトに行っても、初めから「DプランとAプランのどっちにしますか?」といきなり聞いてくる感じで、その判断材料が提示されていない。

こちらは初めてなのだから、「そんなの知ってますよね。だから説明しませんけど」みたいな態度で対されても困ってしまうわけで、本来なら「Dプランというのはこういうプランなので、こういう人にオススメです。逆にそうでない人はこういう理由でDプランを選べないのでAプランにしてください」みたいな説明がほしいのだけど、それがない。

頑張ってエスパー力を発揮すれば、「それまでdocomoだった人はDプラン。auだった人はAプランを選ぶ。ということかな?」とも想像できるけど(上のツイートではそれに近いことが言われている)、それもこの段階では素人の妄想にすぎず、選択時にそこまで説明されているわけでもない。

そもそも、というか、じゃあソフトバンクの人はどっちを選んだらいいのか? ということももちろんわからない。

たとえばmineoのサイトに行くと、端末チェッカーというシミュレーションをできるページがあって、

動作確認済み端末検索|端末|格安スマホ・SIM【mineo(マイネオ)】

なんとなく、そういう意味での知りたいことを教えてくれている感じではあるのだけど、これもまた受け手の解釈の余地が広すぎるというか、素人の側でいろいろと想像して不明点を補う必要がありすぎて、それで合っているのか確信を持てない。

たとえばDプランとAプラン、どっちでもいいなら「どっちでもいいですよ」ということがわかればそれだけでも助かるのだけど、それもわからない。

そこにあるのは、単になんか、プランが二つに分かれている、という状況。
で、どっちがどんな回線を使っているのか、という説明はある。

でも、知りたいのはそういうことじゃなくて、今の自分の環境(端末・乗り換え前のキャリア)から選べる選択肢はどれなのか? ということだ。

そして、その中のどの選択肢にはどのようなメリットがあるのか? ということを知りたいのだけど、それがわからない。

テザリングの可否/決め手はサポートにつながるまでの時間

乗り換え先やプランを検討する際、ぼくがとくに気にしたのは、テザリング機能の可否だった。

そこで、上述のmineoの端末チェッカーというのをやってみると、どうもAプラン(auプラン)ではテザリングができないらしい。
逆に、Dプラン(docomoプラン)ではテザリングができるっぽい。

ということは必然的に、ぼくが選ぶべきはDプランということになるが、そこで気にかかるのは、ぼくが持っているiPhoneauで購入・使用したものだということだ。

でもそれに関しても、IIJmioのサイトにもmineoのサイトにも、auで使用したiPhone6sをDプランで使えるのかどうか、ということが明記されていない。

いや、厳密には上記のmineoのチェッカーを動かしてみると、一覧表みたいなものでそれ(auiPhoneをDプランで使うこと)が可能であるかのように示されるのだけど、上記のとおり、そこにある説明は情報量が非常に少ないので、それだけを根拠に契約まで決断できるかというと、さすがに心もとない。

ということで、とりあえず第一候補のIIJmioのサポートに電話をかけてみた。

もしそこで、「auiPhoneの人でもDプランを使えますよ。テザリングもできますよ」という回答があれば、それで決めたいとも思っていた。

……が、いくら待ってもつながらない。自分の順番が来ない。ずっと待たされる。
5分を過ぎても順番が回ってこないので、一旦切って、上記のmineoの端末チェッカーをまた試したり、その他の説明を見て回ったりした。

でも、この段階ではまだ全然 IIJmio派だったので、しばらくしてからまたIIJmioに電話をかけた。
しかし、そこでもつながらない。5分を過ぎても回ってこない。

で、じつはこの辺から「IIJmio、自分にはダメかも」と思い始めた。

そういう思考になり始めると、いろんなことが気になってくる。

今回2度電話して、いずれも5分待ってもつながらなかった*1ということは、今後も緊急時につながらない可能性が高い。

あるいは、上で「好感をもった」と書いたIIJmioTwitterにしても、どうも担当さんが海外出張に行くとかで、その間はレスポンスが滞ると言っている。

ん? ということは、担当さんってその人だけ?
もしかして、IIJmioのサポート体制ってけっこう薄い? だから電話もいつまでも回ってこない?
という感じになってくる。

で、今度はmineoに電話をかけてみた。
すると、こっちはすぐにつながった。

すかさず、聞いてみる。「auのiPhone6sからの乗り換えだと、Aプランを選ぶことになるのでしょうか? テザリングはできませんか?」と。

答えは、「おっしゃるとおり、Aプランをお選び頂くことになります。テザリングはできません」。

おお〜……って、ええ? じゃあ、テザリングできるって書いてあったさっきのチェッカー、やっぱり間違いじゃん……とガックリ。

なんと言っても、テザリングができないのはかなり困る。

上述のとおり、ぼくは携帯の通話・通信はほとんどしないのだけど、業務上ネットが不可欠なので、自宅のWifiの調子が悪いときなどはiPhoneテザリングを使って一時的にしのいだりする。

というか、よくよく考えてみると、ぼくにとって電話会社とiPhoneの契約をする利点って、このテザリング用途という面がほとんどなので、ということはこれ、もしかするとauに戻る流れ……? とすら思った。このときは。

自信をつける旅に出る(電車で)

しかしやっぱり、どうにも諦めきれず、この段階まではほとんど考えていなかったのだけど、わざわざ電車に乗って近くの大きめの電気店をいくつか回って、詳しい店員さんに直接聞いてみることにした。
こういうところは何気にしつこい。

駅に向かいながら、「どう考えても今、電車に乗ってまで格安SIMのAプランとかDプランとかテザリングとかについて見ず知らずの店員さんに聞くために電気屋に行くの、やりすぎだよなあ……やめようかな」と何度も思ったが、一方で「でもそれしかないって気もするんだよなあ」という気持ちも強く、また一度歩き始めたのに引き返すのも面倒で、結局そのまま行って回った。

で、結果どうだったかというと、これはある意味当然なんだけど、さすがにIIJmioやmineoの公式スタッフがいるわけではないので、テザリングできるかとか、そういう具体的なことはわからなくて、でもそれまでに自分が「こんな感じかな」と思っていた各社・各プランに関する認識に間違いはなさそう、という感触は得られた。

それに加えて、その電気店めぐりの途中で、これはとくに期待していなかったのだけど、以下の専門誌(というかムック)を見つけて、

帰ってきてからこれを一気に読み通してみたところ、「とりあえず格安SIMのことならこのぐらい知っておけば充分」と言えそうなぐらいの基礎知識を一気に飲み込めて、それによってまた「今まで思ってた感じでそんなに間違ってなかったっぽい」という感覚が補強され、なんというか、急に自信が湧いてきた。

で、そのようにして大きくなった自信と実感をもとに考え直してみると、やっぱりさっきのmineoの電話サポートの人、応対は丁寧だったけど、言ってる内容は間違ってるのでは……という気になって、今度はmineoのサポートチャットで同じことを聞いてみることにした。

すると、今回もまた担当者が即出てきて、しかしこのときの回答はというと、「auのiPhone6sでも事前にSIMロック解除すればDプランを選べるし、そうすればテザリングもできるし、逆にAプランを選んだらテザリングできません」という、まさに待望の答えがキタ。

ということで、その前に電話サポートの人が誤った回答をしたことは気にかかるものの、それを補ってあまりあるサポート体制の厚さ、そして懸案だったテザリング問題も解決できるということで、この時点でmineoと契約することに固まった。

手続きに至る具体的な流れ

実際の契約に際しては、これまた思いがけず、上記のムックに付録の「エントリーコード」というものがついていて、それを使うと初期費用の税抜き3千円がゼロになるばかりか、使用開始翌月から3ヶ月間、2GB増量になるという。
むっちゃお得。

これについては、以下のmineoのサイト内の記事でも紹介されている。

king.mineo.jp

mineoの場合は、Amazonでエントリーパッケージというのを千円ぐらいで買うと、同様に初期費用がナシになるらしいのだけど(ちゃんとは確認してない)、このムックは税込み700円強だから、それよりさらに得してる。

ということで、その電気屋めぐりのついでに買ったムックの付録を使いつつ契約することに。

全体的な手続きの流れとしては、

  1. まずauのサイトからSIMロック解除。方法はググった。
  2. 翌日、auに電話してナンバーポータビリティMNP/電話番号をキープしたまま会社を移るやつ)の予約番号というのを受け取る。実質ここでauは解約待機状態。
  3. さらに翌日(その間に上記ムックをあらためて読み込んだので)、mineoサイトから上記のエントリーコードを使って正式に契約申し込み。
  4. その翌日ぐらい(たぶん)にmineoの審査が完了したとかで、SIM送りました〜みたいなメールが届く。
  5. その翌日ぐらい(たぶん)にmineoからSIM到着。
  6. 同日の半日ぐらいしてから、SIMに同封されていた要項を熟読の上、タクシー手袋をつけてSIM入れ替え。いろいろ接続設定。
  7. 自宅のWifiにはすぐつながるようになったが、SIM入れ替えから1時間程度でつながると書いてあったキャリア(docomo)になかなかつながらず「圏外」と出たままなのでちょっと不安に思ったが、端末を再起動したらあっさりdocomoになった。

という感じか。(ざっくり思い出しながら書いたので正確ではありません)

ちなみに、2番のauとの連絡時に、端末代の未払い額を一括で払うか、分割で払うかと聞かれた。ぼくはてっきり一括しか選択できないと思っていたので、ありがたくこれまで通りの分割にしてもらった。

また、3番の申し込みのときに、手続きの後半で個人情報を示す写真(パスポートや免許証)をmineoのサイトにアップロードする工程があるのだけど、ここで何度もエラーが出てしまい、しかしデータもさほど重くないし、ブラウザを変えてもダメだったので変だな〜と思い、またチャットのサポートにかけてみたら、これまた即対応で、「原因はわからないけど、とりあえずスマホからやってみてもらえますか?」と言われ、やってみたらできた。

ここでも、「ダメな原因は不明だけど、それを上回るサポート体制」が発揮された感じでmineoの信頼度が増した。

まとめ

ということで、最後に箇条書きでまとめというかふり返り。

  • 以前から、自分の使用スタイルで毎月1万円の支出、というのはいくらなんでも高いと思っていた。
  • この10〜11月はちょうど更新月(解約してもお金を取られない)ということもあり、乗り換えのきっかけになった。
  • イムリーかつ的を得た乗り換え体験談のブログ記事が出たことで、さらに現実味が増した。
  • いろんな人の言ってる情報を集めて最初はIIJmioにしようと思っていたけど、評判とサポート体制の良さが決め手になって乗り換え先はmineoにした。
  • DプランとAプランの違いに関する説明が薄いが、少なくとも6s以降のiPhoneならどっちでもOK(のはず)。
    • ただしテザリングを使いたいならDプラン必須
    • auだった人がDプランにするなら事前にSIMロック解除をしておく。
    • auだった人がAプランにする場合にSIMロック解除が必要かどうかは知らない。でもサポートに聞けば明快にわかるはず。
  • 各種サイトの説明がわかりづらいうちはサポートの人たちをどんどん頼ってよいと思う。だってわかりづらいんだから。
    • ただし公式なサポートさんでも誤ったことを言うことはある。(けっこうキツイ)
  • この記事から言えることは、「こんな経緯で乗り換えました」という報告まで。乗り換えた後にどうなったか、つまり回線が速いかとか、使い心地はどうかとか、そういうことは現時点ではまったく不明。
  • キャリアとの直契約(au, docomo, ソフトバンク)はたしかに高い。でもそれはある意味当然だとも思う。それらが長年かけて築いてきた技術やノウハウがあってこその現在の便利さだと思うから。
    • しかしそれでも、けっこう長くそうしたキャリアとも付き合ってきたわけで、そろそろ別の選択肢を得て、それなりのリスクを取りながらより使いやすいものに乗り換えるのもまた正当なあり方。
  • まだまだ乗り換えにはそれなりの体力や精神力、それからそうしたことにある程度集中できる時間が必要と思われ、その意味でちょっとハードルは高いけど、こんなにめんどくさがりの自分でも一応できてるので、大半の人にも(それが必要だと思う人ならほぼ誰もが)できるだろう。
  • 今回、最初にやったのは自分の明細書を直近数カ月分、まとめて並べて眺めたこと。自分がこれまで何にどれだけ支払ってきたのか、ひたすら眺めて眺めて、把握した。
    • それを含めて、最終的に端末の回線が切り替わって新回線で通話やテザリングをテスト&クリアするまで、トータル6〜7日ほどだった。

紹介キャンペーン

mineoのアンバサダー制度というものがあって、紹介した人・された人の双方にAmazonのギフト券が贈られるそうなので、これを読んでmineo入ってみようと思った人は以下の紹介URLから申し込んでみてください。

紹介アンバサダー 紹介される方専用ページ|特集|格安スマホ・SIM【mineo(マイネオ)】

追記: 半年後の経過報告

note103.hatenablog.com

*1:実際には何分待てばつながったのかもわからないわけだが。

2016-11-17 Thu:

  • 雨宮さん、残念だ。同世代で、ある種の目標というか、指針というか、憧れのように見ているところがあった。
  • Facebookトラベラーズノートを紹介していて、それを見て僕もそれを買ったのだった。
  • 好きなものに囲まれて生活するという、言えば簡単に言えてしまう、でも実現するのは相当な困難でもあるそれを、コツコツ実現している人だった。
  • モノ、服、住む場所、考え、自分の生きたいように生きるとはどういうことか、その難しさと、価値を示してくれる人で、それを自分に年齢の近い異性が、この現実世界でやっていて、これからどうなっていくのか、その姿をぼく自身にも反映・影響させるようにして、遠巻きに眺めていた。
  • 雨宮さんの書いた文章や、残した空気、考え方は、これからも消えずに、あるいは影響力を増しながら、生きていくに違いない。ぼくもまた、それとともに生きていこう。

2016-10-15 Sat: 音声入力を用いた文字起こしでブログ(2)

記録&ふり返り

前回に続き、掲題のトライ。
今回の流れは以下。

1 録音ファイル(26min)をエディット 45分
2 音声入力による文字起こし1周め(再生速度135%) 18分
3 音声入力による文字起こし2周め(再生速度135%) 15分
4 音声ナシで2,3のテキストファイルを統合しベーステキストを作成 7分
5 音声を聞きながら(再生速度80%)テキストを粗く修正 30分
6 音声を聞きながら(再生速度80%)テキストを本格的に修正 50分
7 音声ナシでテキスト整形(1文あたり100字前後で改行) 16分
8 音声を聞きながら(標準速度)仕上げ的修正 31分
9 音声ナシで表記統一(textlint使用) 6分
10 音声ナシで仕上げ(段落分け・タイムスタンプ挿入など) 17分
235分

前回は10分程度のファイルで、文字起こし完了までにかかった時間は115分だったが、今回は20分強の内容を4時間弱で起こしたので、それぞれほぼ2倍ずつ。

下記の起こしでも言っているように、自分では「録音の時間が2倍になったからといって作業時間も2倍になるわけではないはず(もっと短時間になるはず)」と言っていたので、思いきり見込みが外れて笑った。

記事の最後でまたSoundCloudで元音声を公開しているが、最近、仕事部屋のすぐそばで特大の工事が行われており、『ポーラX』(映画)のようなインダストリアル・ノイズが鳴り続けていてけっこうシュール、というかうるさい。

内容じたいはいつものような、実があるんだかないんだかわからないようなものだけど、いずれにせよ、こういうものをほぼ4時間かけて作る、というのはなかなかモチベーションが維持されないので、もし次回以降まだ続けるなら、もう少し時間を短く区切ったほうがいいかもしれない。

より直接的な狙いとしては、上の工程における10ステップをもう少し洗練させて、あまり考えなくてもシステマチックに作業できる体制を作ってみたいところ。

文字起こしのプロになりたいわけではないのだが、今までぼんやりやっていたこと、しかもけっこう本格的に消耗していたことを、意識的にシステム化してラクに対応できるようになったら面白いなと思って試みている。

上記工程表のステップ9でtextlintについてメモしたが、その辺の詳しい内容については別途まとめてみたい。(というようなことをいつも言っているが)

transcript

# 0:00

  • はい。ええとですね、この前、と言っても何日ぐらい前ですかね。ブログで文字起こしを、自動でっていうか、自動じゃないんですけど、音声入力でですね、文字起こしをちょっとでもラクにしようみたいな試みをしてるやつのサンプルというか、実験というか、お試しというか、自分で実験、自分の話で実験しようというやつの第1回というんですかね。やってみたんですけど。
  • そのときは、ちょっと時間ができたときにやったんですけど、別件がすぐに入っちゃって、話が中途半端なところで止まっちゃったんですけど。
  • 7分ぐらい。7分10秒ぐらいとかの音声ファイルを対象に作ってみたところ、音声入力による文字起こしで、合計115分。けっこうかかってんじゃんと思ったんですけど、今見直すと、実質、本格的に作業してるのは60分ぐらいですかね。
  • その115分のうちの最初の30分ぐらいは、音声ファイルのエディットで使っているので、まあ通常、文字起こしの音声ファイルっていうのは生データっていうか、外に出ることは普通ないものなので、そこはだいぶ削れるかなとは思うんですけど、とは言ってもまあ、30分が10分になる程度かな。かもしれないんですけどね。
  • あと、最終的にぼくのは7分ちょいになりましたけど、実際はけっこうだらだら喋っていてですね。ネタは全然カットしてないんですけど、空白部分とかを、なんかあるんですよね。音声エディット用のソフトウェアで、空白を詰める機能みたいのが。たまたま発見したんですけど、普通にありまして。
  • それでそのぐらいになったので、元々は10分弱ぐらいだった気がするんですけど。なので、そのぐらい、10分ぐらいだらだら喋ったものを、まあ最低限というか、起こすと、115分。まあ120分ぐらいかかったと。なので、12倍? 12倍っていうか、10分の内容が2時間だということですね。
  • ただ、そのブログにも書いたんですけど、この時間がですね、増えて、たとえば20分のデータ、30分データってなったときに、2時間だったのが4時になり6時間になり、ということになるかと言えば、たぶんそういうことはなくて。初期費用みたいなものがけっこう大きくて、電話の基本料金みたいなものでですね、固定費的なものの時間がたぶん、あるんですよね。
  • だから、変動費ではない部分がけっこう大きくて、変動する部分だけが2倍3倍になっていくという感じだと思うので。
  • じゃあ20分だったら、30分だったらっていうのも本当は試したいんですけど、それはそれでけっこうコストがかかるので。いつ試せるのかなーっていう感じですけどね。

  • ええと、この前ですね、録っていた話の、最後ちょっと中途半端になっちゃったなっていうところがですね……ああ、そうそう、機械がその音声入力とかによってですね、あとぼくがやってるのはただ単に音声入力できるねっていうだけの話っていうよりは、もう機械の中で自動的に、なんと言うんですかね、まあそこが自動なんですけど、機械にmp3とかのファイルを入れて、アップして、そしたら機械がそのまま読みこんでテキスト化してくれると。
  • そういうこともまあ、ちょっとだけ足を踏み入れてはいるので。勝手にやってくれるっていうか、まあ再帰的に。
  • その要素がですね、たぶん突き詰めれば、人間がやってることがだいぶ減るよねっていうことで。なんだけど、やっぱり同音異義語とかは、どうしても調整の手間がかかるはずだし、そこは人間のやることとして残るかなあ、みたいな感じで話が終わったんですけど。

# 5:00

  • ただ実際はですね、その同音異義語にしても、大抵は文脈で判断できるわけなので、機械のほうでもですね、どうなんでしょうかね、機械学習とかってそういうものなのか、どうなのか、よく知らないんですけど、機械学習とかのそれを使えば、あるいは使わなくても、この文脈だったらこれだよっていうのが判断できればいいだけなので。
  • まあ、同音異義語もそうだし、あとはたとえば、この対談はミュージシャン同士だから、この話題のこの単語はこういうやつに決まってるよ、とか。あるいはスポーツ選手同士だから、この単語はこれだとか。専門領域ごとにですね、ちょっと初期設定を変えておけば、同音異義語で変なのを拾ってくる余地も、まあ減ってくるだろうなとも思うし。
  • その意味でも、人間のやることはまあ、減る一方なのは間違いないんじゃないかなあ、ということは思ってるんですけどね。
  • とは言っても、今この段階では、あまりにもちょっと面倒くさいよなあ、と。面倒くさいことが多すぎるんで、そんなすぐは、たとえば文字起こしを専門的にやっている人がすぐに仕事を失うかというと、そういうことはない、むしろ、たぶん過渡期的に、今なんかやけにすごい、やけに文字起こしの需要が多いんじゃないかな、とじつはまあちょっと思っていて。
  • なんか文字起こしを依頼したい人、自分は起こしたくないけど、これ起こしてほしいなっていう需要がけっこうあるような感じをひしひし感じなくもないんで。
  • たぶんまあ、それをいずれ機械が引き受ける方向で、誰かが頑張って開発したりするんだろうな、とも思うんですけど、それが形になるまでのその過渡期というか、ところをね、誰が引き受けるのかなって、すごい、まあできる範囲ではぼくも何かしらやりたい気はするんですけどね。
  • 需要はなんか、ある気がするんですよね。文字起こししてほしい、と。そのままどっか公開するわけではないんだけど、あるいはそのままどっか公開するんでもいいんだけど、いろいろ録った音声を、テキストにしたいんだよ、みたいな感じがね。なんでかなあと思わなくもないんですけど。
  • まあ、発表できる場所が先にできたってことなんですかね。そのブログでも、Webメディアでも。もう発表する場はあると。で、ネタもあると。誰かがどっかのカンファレンスで喋ったとか。でもそれを、テキスト化する人がいない、みたいな感じなのかなと。

  • ぼくは……ってその文字起こしの話の続きなんですけど、ぼくは初めて文字起こししたってのが2000……あれは2004年かな。
  • 菊地成孔さんというジャズミュージシャンの方が、東京大学でジャズの講義をしていまして。ぼくはちょうどその少し前ぐらいに菊地さんの活動を知ってですね。ちょっと、まあ追っかけというほどでもないんですけど、活動をチェックしていたら、なんかたまたまそれ、もぐれるぞ俺、みたいな。時間あるぞ、という感じで。もぐってたんですよね。その東大の講義に。
  • で、その講義の様子を文字起こししようかなみたいな感じで。なんとなくそういうふうになってですね、それでやりはじめたのが一番初めで。
  • それをネットにHTMLとかで、書いて公開するってのをやってたんですよね。
  • まあ、よくよく考えると、ぼくはプログラミング入門の話とか、最近けっこう好きでしてるんですけど、2013年ぐらいからプログラミング入門したぞとかって言ってたんですけど、HTMLはもう2004年から書いてたなって思い出したので、なんかいろいろ記憶が錯綜している部分もあるんですけど。

# 10:00

  • いずれにしてもそのときに、文字起こしを、もうそれは完全に趣味でやってて。で、その頃からよく思ってたんですけど、なんで文字起こしをやってるの、好きなの、みたいなことでですね。またちょっと話が飛ぶんですけど。
  • ぼくは美大に通ってたんですよね。油絵科だったんですけど。その美大がですね。武蔵野美術大学って言って、けっこうなんだろう、もっさりした……もっさり……学生さんは普通に若者なんですけど、油絵科がですねえ、まあ古き良き、まあ武蔵野っていうぐらいなので。そんなにすごいかっこいいとかじゃないんですよね。
  • タマビとか、東京造形大学っていうのがその頃、まあ東京芸大っていうのが、トップオブトップ、美大の中の美大、むしろ芸大みたいな感じで、そこはもう突き抜けてかっこいいなあ、という感じなんですけど。他の私立大学の美大だと、タマビとかですね、造形大っていうのは、なんかおしゃれだなっていう感じで。
  • ぼくは75年生まれで、美大に入ったのは95年とか。二浪して入ったので。その頃受験してた人たちは、なんとなく、もしかしたら共感してくれるかもしれないんですけど。今は全然、どうか知らないんですが。武蔵野美大はですね、ちょっとそういう中では、レベルはけっして低くはなかったと思うんですけど、そんなかっこいいような感じではないというか。
  • おしゃれという感じではないけど、まあ、手堅いよね、みたいな感じなのかなと思ってまして。まあ、地味? 地味っていう感じかな。でもぼくは地味なのがけっこう好きだったので。ムサビに行ければいいなって思っていたんですけど。
  • で、そのムサビがですね、たしか入ったときの、受験のデッサンのですね、木炭デッサンとかで描くんですけど、課題が自画像だったんですよね。で、ぼくは自画像がすごい得意だったんですよね。もう予備校の頃からもそうだし。それで何とかパスして、なんかべつにもう美大で描きたいこともないけど、ずっと自画像描いてればそのうち芽が出るかな、みたいな感じで、思った記憶をすごく覚えていてですね。実際は自画像どころか、絵をほとんど描かなかったんですけど。
  • んで、なんでその話なのっていうと、その自画像と文字起こしってけっこう似ているなあという感覚が自分ではあってですね。自画像って、かなりコストがかからないものなんですよね。風景画は外に出なきゃいけないし、人物画はモデルさんが必要だし。まあ写真で描いたりする人もいるとは思いますけど、いわゆる人物画は、まあモデルさん、生きてる人に協力してもらったりするのも面倒だし。
  • あとなんだろう、静物画。物を描くとかは、物をセットしたままじゃなきゃいけないのもけっこう大変だけど、自画像って自分だけいればいいので。鏡と自分と画材があればいつでも好きなだけ描けるんですよね。
  • で、文字起こしも、その必要な音声と、書くための機械があればいいだけなので、本当に自分の都合で好きなだけできると、いうところがあってですね。
  • あとはまあ、音声をテキストにするっていうことは、「別の物」にしているってことなので、どれだけ近づけてもですね、終わりがないんですよね、文字起こしってのはね。音なので、音を文字にしているので、それって結局、たとえば「りんごを絵に描きましょう」って言って、これむちゃくちゃ上手いね、このリンゴの絵、すごい本物みたいだねって言っても、まあ紙なので、紙またはキャンバスと、その画材。絵の具とか。なので、どこまで行ってもリンゴそのものではないわけですよね。
  • だから、ものすごい写実的にむちゃくちゃ上手く描くっていうことと、ものすごい細かく文字を起こすってのは、すごい似てる。で、どっちもぼくが好きな作業っていうか、ひたすら似せていくというかですね。で、終わりはないという。なぜなら、別物だからっていう。そのあたりがけっこうフィットして。まあ地道にですね、ちまちま絵を描くっていうのと似てる、ところがけっこうフィットして。まあ好きでやってんだなあとか思うんですけどね。

# 15:00

  • で、その音声入力とか、あるいは自動入力で、勝手にテキスト化してもらう、マシンにしてもらうとかっていうのは、ある意味その、自分で自分の首を締めるというか、率先して息の根を止めにかかってるような感じもなくもないんですけど。
  • やっぱりでも、それでも残るのは何なのかな? っていうのを早く知りたいっていうところがけっこうあっでですね。
  • だからもう完全に、そんなの人間がやらなくていいんだよっていう状況になったらなったで、じゃあその先って何があるのかな? みたいな。それでも文字起こししたりするのってどういうことなのかなって、やっぱり知りたくなるというか。そういうところにけっこうひかれてるのかもしれないですけどね。

  • それでまあ、ちなみにっていうか、時々、とくにその自動文字起こしとかを試しはじめてからちょっと思うのは、文字起こしとですね、ぼくは今、坂本龍一さんの音楽全集っていうので、ブックレット、CDブックのブックレットを中心に編集してるんですけど、まあCDの方もちょこちょこいろいろ、やることはやっているんですが、その編集っていうのがですね、結局、さっきも言った、音をテキストにしていくという文字起こしというのが、もうこれはすでに編集でもあるんですよね。
  • たとえば、括弧笑いって、なんか笑いながら喋ってるなって思ったらとりあえず「(笑)」を入れとくかって感じになるわけですけど。なんか、クスクス笑ってるのか、大受けしているのか、嘲笑っているのかによって、でもそれ、全部「(笑)」でいいのかなあとか。
  • あるいはまあ、そもそも「(笑)」を入れずに笑ってることがわかるようにしたほうがいいんじゃないかなあ、とか。いろいろ考え始めると、それはすでに編集。「(笑)」をここはとっておこう、という判断はもう編集だし。
  • あとはなんか叫んでるからビックリマーク入れとくか、というのも編集作業ですよね。だから、一字一句変えずに、「ああ」とか「うーん」とかを全部仮に入れていたとしても尚、なんでそこで句読点入れてるの、とかはもう編集作業なので。
  • だから、そのままその、「文字起こし」がどこまでマシンに奪われるのかっていうのを考えると、じゃあ「編集」はどこまでマシンに奪われるのかなっていう課題にもなっていくというか。まあ課題っていうか、想像する対象としてですね、あるので。
  • そうすると、そこまでまた考えると、いろいろさらに面白い。それ、人間がやる必要あるの? みたいな感じがですね、考えられて面白いなあと。
  • やっぱりその、たとえば「リンゴ」って誰かが言ったときに、「リンゴ」ってテキストに起こすのは編集なのか? って言うと、それはただ文字にしただけですよねって、まあぼくだったら思うんですけど。
  • でも「リンゴ!」っていきなりでかい声で喋ったら、じゃあそこはビックリマークで、「リンゴ」の後に「!」入れてやれっていうのはまあ、そこは編集かもしれない。
  • でもその違い……違うんだけど、違いは、なんだろう。そんな明白に、階段の段差みたいに違うわけじゃなくて。線が間に引かれてるとかですらなくて、明らかに違うんだけど、その境界線はなんかよくわからない、みたいな。
  • だから時々、喩えで出すんですけど、「右手と左手の境目はどこなの」っていうと、右手と左手はまあ明らかに違うんだけど、ずっと体を辿っていくと、継ぎ目とかはないわけですよね。
  • どっかで誰かが、体のちょうど半分の、みぞおちとか、鼻のラインとかで分けましょうって決めれば、じゃあそこから右にしましょうって言えるんだけど、ずっと肌を辿っていくと、まあ右手の中指の先から、左手中指の先まで、地続きになっているわけで。どっちも右手の一部だよっていうことも言えなくもないみたいな。
  • その境界のなさみたいなものがですね、「文字起こし」と「編集」の間にはある。どこからどこまでなのかなって。
  • なんかそういう、じゃあどこまでがマシンに任せられるのかな? とか。どこまでがやってて面白いのかなとかですね。考えているとけっこう、興味が尽きないというかですね。そういうことも考えつつ、まあいろいろ試しているというところですね。